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わたしのブログ

わたしという餃子の爆発

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今から不倫相手への憎悪を語りますが、「不倫女が何言ってんだ」みたいなところは一旦棚に上げさせてください。これはわたしのわたしによる、わたしのための文章です。

秋がきて わたしの彼氏はパパになる 妻との不仲はフィクションでした。

思わず地獄短歌です。

「妻とはセックスどころか会話もなく、離婚秒読み家庭内別居」と聞いていたのですが、この度なんと奥様がご懐妊とのこと! 誰の子? 神の子? 彼の子ですか? セックスもなしに不思議です。

 

先日、「SNSにまるで興味がない」って設定だった奥様のインスタアカウントを発見しました。「興味がない」どころかフォロワー2000人のちょいインフルエンサーじゃないですか。「何でもない日常を、丁寧におしゃれに。」をテーマに、毎日更新してますね。計算された美しい色彩の写真や動画の中には、顔出しこそしてないものの、そこかしらに貴方の腕が、声が、背中がそこに在って……思わず鬼束ちひろになっちゃった。最新の投稿は『ご報告』。まだふくらみの目立たないお腹の上で重なった男女の手。その大きい方、甲にホクロのある骨張った手、かなり見覚えあるんですけど、これってもしかして、1年前に「女性の手を握るなんて久しぶりで……緊張してる」とはにかんだ、わたしの彼氏の手だったりします? だとしたら死刑、死刑です。釜茹での上で打首獄門、車裂き。よろしくお願いいたします。

 

妊娠を知ったきっかけは、数年ぶりに会った同級生の転職先が彼の会社だったことです。大学同期のハルちゃんは、新卒入社した大手から、創業2年・従業員25名のベンチャーへ。家族には反対されたものの、社長の人柄とビジョンに惹かれて転職を決意。わかります。弱冠27歳の社長は、東大在学中に予備試験を経て司法試験に合格。けれど法の道には進まず、卒業後は畑違いのIT業界で起業。インターネットの力で教育格差を是正するべく、日々奮闘しているそうな。とんでもなく頭の回転が速く、機転が利いて、周りに感謝と敬意を忘れない。それでいて少し抜けていて、周りに愛される愛嬌がある。そんな社長の人柄に惚れて、優秀な人材が集まってくる――全部彼から聞きました!!!!

「年下だけど尊敬してる。社長の夢を叶えたいんだ」と語った彼を応援したいと思った夜を、昨日のことみたいに思い出せます。ハルちゃんの同僚でもある彼は、ほとんど創業メンバーで、子供が出来たと聞いた社長は大変喜んだのだとか。初の男性社員の育休に向け、着々と準備が進んでいると……そうですか、素敵な会社で何よりです。

 

言い訳なのはわかってますけど、奥さんと仲が良いって知ってたら、既婚男性に手出してないです。「妻との不仲」も「もうすぐ離婚」も不倫男の常套句と言われればぐうの音も出ません。けれど、そういう嘘をつく人だってわかっていたならそもそも付き合ってないわけです。嘘をつく人じゃないと思って好きになったのか、好きになったから嘘つきじゃないって思いたかったのか、その辺りは定かではないし重要でもない。……そうですね?


「家事も料理も下手くそ」と言っていた奥さんは、丁寧な暮らしの代表みたいな人でした。結婚記念日のディナーの写真もちゃんとインスタに上がっていました。嘘つき。それなのに、住んでる場所や職場や仕事への思いなんかは本当で、あの、バカなの? 手の届く場所に劇物を置くな。

 

嘘をつくなら1から10まで嘘で固めるべきだった。名前、職業、家族構成、居住地、出身、エトセトラ。矛盾がないよう設定を練り、どんなに調べられても足がつかないよう細心の注意を払い、架空の上司の架空の愚痴を用意するくらいの気概がないなら黙ってろ。都合の良い事実を盛ってワンランク上の自分を演じたり、実生活の一部を切り取った自慢や愚痴の吐き出しに他人を、わたしを利用しないでほしいです。

 

わたしは「騙された!」と泣き喚きながらあなたの職場に突撃できるし、LINEのキャプチャをつけたDMを社長のSNSに送りつけられる。妊娠中の奥さんがハーブを栽培する素敵なお家の呼び鈴も押せる。……出来ないと思ってナメてるのか? それともバレるはずないと? 「奥さんのヒステリックさがしんどい」と度々漏らしていたのは本当? 魔に受けたわたしはこの1年、意識して落ち着いた大人の女を演じていたわけだけど、人間なんて爆薬を皮で包んだ生き物なわけで、いわば爆薬餃子なわけですよ(?)。他人の抱える爆薬をナメてはいけません。


昨日から頭痛と動悸がおさまらない。わたしという餃子の爆発はもはや避けられないけれど、ひとりで木っ端微塵になるのはまっぴらなので、おすそ分けに伺います。

 

「逃げることなど出来ない。貴方は何処までも追ってくるって泣きたいくらいに分かるから。分かるから……」
今度は向こうが鬼束ちひろになる番です。有給を取ったわたしはスマホをポケットに突っ込んで、インスタグラマーと嘘つきの暮らす世田谷代田に向かうべく玄関を出ました。

奥さんの妊娠を、彼がどのようにわたしに伝えるつもりだったか。あるいは伝えるつもりでなかったのかは、わからないしどうでもいい。どちらかと言えば、奥さんから妊娠を告げられた時、彼の頭に一瞬でもわたしの顔が浮かんだかがどうかを知りたい。新品のヒールでオートロックのマンションのエントランスに足を踏み入れながら、わたしはそんなことを思ったのでした。

 

おしまい

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