昔々、あるところにシンデレラという美しい娘がおりました。父親の再婚相手とその娘たちはマジでとんでもない性悪で、父親の死によってそれは加速しました。姉たちが散財を極める中、シンデレラは無料家政婦としてこきつかわれ、毎日のように因縁をつけられ、ネチネチといじめられていました。ただ姉たちは想像もしていませんでしたが、シンデレラは義母と義姉のクソエピソードをTwitterでバズらせ数万人のフォロワーを獲得、今では有料スペースとnoteのマガジンで、毎月それなりの収入を得ているのでした。
ある日、王子様が自分の伴侶を探すため、お城で舞踏会を開催すると知らせがありました。街中の女を招待するタワマン合コンのようなものです。その日に合わせ、姉たちは美容院、ネイルサロン、美容皮膚科の予約を入れ、眉間とエラにボトックスを注入しました。なぜか義母までダウンタイムを計算し、リフトアップの手術をしました。ドレスや靴の購入費用も父の遺産から出ています。シンデレラは舞踏会には行かせてもらえず、当日は換気扇と排水溝の掃除をするよう命じられました。ウチらが帰るまでに済んでなかったらどうなるかわかってるよな? と脅しをかけられたシンデレラは、知らねえなわからせてくれよ喧嘩上等、出すぞ出刃包丁、と内心で中指を立て韻を踏みながらも、しょんぼり顔で頷いたのでした。
ところでシンデレラは料理が上手で、毎日舌がとろけるような絶品を作り続けておりました。「これはラカントと言って、カロリーゼロの甘味料です」と言いながら砂糖をドバドバ使い、本来のレシピの倍の油で調理した味の濃い料理は、姉たちの舌をとりこにしました。当然、姉たちはみるみる太り、ハイブランドで買った服を一度も袖を通さぬまま着れなくなることもしばしばでした。そんな服たちを、シンデレラはこっそりメルカリに出して小遣い稼ぎをするのでした。【新品未使用☆タグ付き!】。商品の状態の良さ、絶妙な価格設定、迅速な発送は多くのユーザーに支持され、メルカリの評価は傷ひとつない星5つです。
シンデレラはクレジットカードを没収されていましたが、隠れて新しいカードを作っていたのは言うまでもありません。気軽に買い物にも行けない彼女は、ZOZOマットで足のサイズを正確に計測し、インスタで見つけたお気に入りの作家にガラスの靴をオーダーしました。予算を大幅に超える見積もりに一度はたじろいたものの、清水の舞台から飛び降りるつもりで購入を決意。その日のうちに振込を終えました。
貯金が底をついてしまったため、ドレスはZOZOツケ払いで購入。舞踏会前日に届いたガラスの靴は超絶可愛かったのですが、長距離を歩ける代物ではなかったので、お城にはUberで向かうことにしました。掃除は家事代行サービスを利用します。このように、スマホとクレジットカードさえあれば、馬車も魔法使いも不要なのです。
毎日YouTubeで勉強した甲斐あって、シンデレラのヘアもメイクも素人の手によるものとは思えない仕上がりでした。事前に王子のインスタのフォローやTwitterのいいね欄を入念にチェックし好みをリサーチした結果、聡明でちょっと気が強そうなビジュアルを目指して作りこみました。作戦が功を奏し、王子はひと目でシンデレラを気に入ったようでした。声をかけられたシンデレラは、一曲だけダンスに付き合った後、体調が悪いわ……などと囁いて、窓辺のテラスでふたりきりになることに成功しました。王子が飲み物を手配している隙を見て、シンデレラは王子のスマホに位置情報共有アプリをインストール。ちなみにスマホは、先程ふらついて支えてもらった時に、王子の懐から抜き取りました。シンデレラは賢く美しく、ちょっと手癖の悪い女のコです。
飲み物を頼みに行った王子は、バチェラー・ジャパンのカクテルパーティなみに女たちに囲まれていました。
「次、お話してもいいですか?」
「私もその次予約したいです!」
王子が長い間席を外していることは、シンデレラにとっても好都合でした。王子のスマホのKindleアプリから読書傾向を、Netflixから好みの映画を、並んだアプリのアイコンからプレイ中のソシャゲをチェック。女たちの波に揉まれて帰ってきた王子に涼しい顔で「忘れてましたよ」とスマホを返し、入手した情報を元に会話を盛り上げ、王子のテンションがマックスになった瞬間に意味深に時計を見て言いました。「もう帰らないと……」。特に予定はないのですが、デートは1番盛り上がった瞬間に切り上げる! これが連続ドラマの法則♡ というネットの記事をタクシーで読んだので、それを実践したのです。
帰り支度をするシンデレラに、王子は当然言いました。
「LINE教えて?」
シンデレラが自分のスマホを取り出しQRコードを表示しようとしたその時、視界の端に義母と義姉が映りました。シンデレラは舌打ちし、義母たちから逃げるように階段を駆け下り、その途中でガラスの靴を片方落としてしまいました。
クッソ!!!!!!
心の中で叫ぶも、時すでにお寿司。義姉ふたりに両腕をホールドされた王子の未練の視線を背中に感じつつ、シンデレラはタクシーに飛び乗ります。さよなら王子様、また会う日まで。時期を見て、位置共有アプリを使って偶然を装い再会しますのでお楽しみに。
シンデレラは家に帰って家事代行スタッフの掃除の出来をチェックして素早くレビューを投稿し、いつものボロ服に着替えていかにも掃除に疲れて寝てしまいました、みたいなテイで机に突っ伏して仮眠をとりました。
深夜2時に帰宅した義母と義姉は、そんなシンデレラを叩き起こして夜食づくりを命じました。ソース2倍の焼きそばを作るシンデレラに、義姉たちは舞踏会がどんなに素敵だったか、王子がイケメンだったかを口々に語り、上の義姉にいたっては「最初から王子の目は私に釘付けで、熱心に誘われたから一度だけ踊ってあげたわ」などと言い放つ始末。嘘を嘘であると見抜ける人でないとインターネットを使うのは難しい――インターネット黒帯であるシンデレラは、嘘乙wwwwwと思いながらもお姉様は本当にしゅごい……みたいな顔で食後に庭で採れたカボチャを使ったパンプキンパイを出しました。
シンデレラが位置共有アプリを使うまでもなく、再会の機会は訪れました。舞踏会終了直後に、王子のインスタに1枚の写真が上がったのです。シンデレラのガラスの靴でした。「この靴を落とした女性に会いたい」の旨が、やや固い文体で添えられています。
ほんの1時間で「あ!! それ私のです!!!!」とのコメントが2000件付き、この嘘つきどもめ……とシンデレラはギリリと唇を噛み締めました。すぐにシンデレラは新アカを作成、王子にDMを送りました。あえてメッセージなしで画像を1枚。王子がインスタに載せたガラスの靴の、もう片方の写真です。本当の持ち主にしか撮れない写真に、王子はすぐに食いつきました。
「どこ住み?」
翌日、王子が従者を引き連れシンデレラの家を訪れました。義姉たちは慌てて身繕いをしましたが、前日の暴飲暴食で顔のむくみが半端なく、おまけに化粧ポーチがどこにあるのかわからぬ始末。一方のシンデレラは、義姉のトムフォードのシェイド アンド イルミネイト ファンデーションを使い、滑らかさと艶、抜け感のある素肌を演出。ピュアで可憐に唇を彩るディオールの ルージュ ディオール バームですっぴん風のナチュラルリップで王子を迎え撃つかまえ。ギャップを見せつつ舞踏会での聡明で意志の強い印象を失わぬよう、目元には細くラインを入れました。
「このガラスの靴をぴったり履ける女性を探しています」
従者の言葉に、義姉1はほえ? という顔をしていましたが、義姉2は素早くスマホで現状を把握、「私こそがその靴の持ち主」と主張しました。けれども縦も横もサイズが合わず、爪先を切り落とす勢いでねじ込もうとしましたが、伸縮性のないガラスの靴はどこまでも無常。足を入れることはできませんでした。義姉1も同じくかかとを削ぎ落とす勢いでしたが、靴を履きこなすことはかないません。ちなみに義母も「履いてみようかしら?」となぜか乗り気になっていましたが、その場の全員に無視されました。
満を辞し、シンデレラはガラスの靴の片割れを持って進み出ました。シンデレラは舞踏会のドレスとは似ても似つかぬ義姉のお下がりのガルフィのジャージ姿でしたが、目が合った瞬間に王子は瞳を輝かせました。王子が差し出すガラスの靴に、小さく可憐なシンデレラの足がぴったりとはまります。見つめ合うふたり。感動に震える王子の手が、はにかむシンデレラの手を取ります。たまたま見ていた隣の家に住むTiktokerが、その瞬間を撮影・編集・アップロードして大バズりしました。
トントン拍子で結婚が決まり、シンデレラは華々しく嫁いでいきました。婚約直後にシンデレラの裏アカが暴かれ、義母義姉がどちゃくそに叩かれる事件があったり、「運命の出会い!? 一夜のパーティーで運命が変わったシンデレラとは…? 調べてみました!」的な記事がネットに大量に出たり、シンデレラのWikipediaが荒らされては修正されを繰り返したり、小さなゴタゴタはありつつも、結婚式でウェディングドレスに身を包んだシンデレラが最高に輝いていたのは誰しも認めざるを得ず、公式インスタのフォロワーは100万人を突破しました。それからシンデレラと王子様は、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
……と言いたいところですが、シンデレラの打算と王子の一目惚れで始まった恋は長くは続きませんでした。結婚生活は秒で破綻。1年後には泥沼の離婚劇を繰り広げ、その更に半年後には、シンデレラ側の暴露本がベストセラーになりました。多くのフォロワーを引き連れたシンデレラがオンラインサロンで大儲けをするのは、また別のお話です。いかがでしたか?
おしまい
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