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わたしのブログ

嘘つきロミオと絶対死なないジュリエット

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幼い頃から神童と呼ばれ、すくすく育って天才となった。奇抜な発想・泣きぼくろ・ちょっと抜けてるところがチャームポイントの22歳です。

 

大学生になったわたしは、趣味でアプリの開発をしていた。簡単に言うと、アプリを入れたスマホから、嘘のメッセージを送ると死にます。メールだろうとLINEだろうと、SNSのDMだろうと、とにかく真実でない内容を故意に誰かに送った場合、アレがアレして心臓が止まる仕組みです。

 

そして今日、彼氏のスマホにアプリをインストールした。死亡通知が届いたのは、彼の家を出て2時間後。「やっぱり誰よりサヤが好きだ」とのLINEを受信した5分後だった。

アプリの最初の被験者は、去年のゼミ合宿になぜか来ていたOBだった(本当になんでいたんだよ)。

合宿2日目、会話がまばらになって寝ている人もいた部屋飲み終盤。先輩がスマホをいじっているのを見て、わたしは彼にLINEを送った。

「センパイ、去年わたしの研究データを丸パクリしましたよね」

 

先輩はあからさまに顔を歪めてこちらを睨み、すぐに「してねーよ」と返信してきた。わたしのスマホの受信音と、先輩の「うっ」が重なった。先輩の顔はみるみる紫色になり、2分ほどもがいて死んだ。南無。ちなみに死因は不明とのこと。

ゼミ合宿から半年経たず、教授も、親友のナツコも死んだ。わたしはとても悲しかった。

でも尊い犠牲を無駄にはしない。先輩の死後には苦痛を和らげる改修を入れ、教授の葬儀後には、対象の死亡を知らせるアラートが、わたしのスマホに届くようアプリをアップデートした。それらをナツコでテストして、いったんアプリは完成とした。

……ナツコの命日は、冷たい雨が降る冬の日だった。

講義中、わたしは離れた席に座るナツコの横顔を見つめていた。このところ、彼女は急にあか抜けた。くすんだグリーンのネイル。オレンジのチーク。無造作なまとめ髪。どれもよく似合ってる。

 

頬杖をついたナツコは、机の下でスマホをいじっていた。送信ボタンを押した瞬間、彼女は意識を失った(たぶん)。同時にわたしのスマホにLINEが届く。「ごめんね、今日は親と予定があるの」byナツコ。間髪入れずに死亡のお知らせ。

「ムライナツコさんの心拍が停止しました」

 

生命活動を終えたナツコが体勢を崩し、となりのサカグチさんが声をかける。返事はない。息もしていない。サカグチさんの悲鳴を皮切りに、教室は大騒ぎになった。ナツコとその隣の席に置かれていたプラスチックのカップが落ちて、中身を床にぶちまけたのを見て、わたしはその場を後にした。

 

今日のナツコは可愛かった。サカグチさんたちと買い物の予定があったからだろう。つらいけど、悲しいけど、彼女がお気に入りのワンピを着ている時に、楽に死なせてあげられて良かったと思った。校舎を出ると涙が出てきて、校門を出ると止まらなくなった。ナツコのばか。タピオカミルクティーなんて嫌いなくせに。

 

……で、彼だよ。

今までも、わたしがご飯をつくって待ってたのに「急な仕事」でドタキャンし、そのわりにゲームの記録を更新してたり、「家賃が払えない」と借りたお金でパチンコしたりとヤバエピソードは多々あれど、最近の彼は嘘をつきすぎて、自分でも管理しきれてなかった。

 

「今週末会える?」
「今週は資格の試験があって」
「この前は、その日は法事って言ってたけど?」
「ほ……法事の試験勉強……」
「は?」

 

そこから罵詈雑言、枕や本が飛び交う大喧嘩に発展。結局むこうが「もう嘘はつきません」と土下座をしたので、許す代わりに隙を見て、彼のスマホに例のアプリを入れました。んで2時間後に死にましたとさ。はえーわ。



合鍵で彼の部屋に入って、ベッドで死んでる彼を発見。南無。生前から、嘘つきなくせにガードが甘い人だったので、スマホの暗証番号は把握している。

 

迷わずLINEを開いたけれど、最新のやりとりはわたしじゃなかった。たぶんバイト先の後輩。

「じいちゃんが死んだから、今日悪いけどバイト代わってくんない?」







……は???????

いや、あんたのじいちゃんは、あんたが生まれる前に死んだはずだが???? それも嘘?いや、流石にそれは……。てことは、彼がついた嘘ってこれ?わたしへの「やっぱり誰よりサヤが好き」は……えっと、嘘じゃ……なかった……ってこと?ってことは、ってことは……。

 

……。

 

そういえば、嘘を送ればほとんど時差なく死ぬはずなのに、死亡通知は5分後だった。いや、えーーっ。わたしに愛を伝えた後で、バイトをズル休みしようとして死んだってこと? 死因:ズル休み? うそでしょ。マジで? 

(※色んなことを棚に上げて言っています)



やだやだタカくん、死んじゃやだ。えー無理、なんとか生き返らない? 念のため確認したけれど、心臓はもちろん止まってる。えーん。彼に振り回された数年間の思い出が、凄い勢いで美化されていく。なんかイケメンだった気さえしてきた。よく見ると吉沢亮に似て……は、……ない……。



こうしてわたしたちは、現代のロミオとジュリエットになった。今すぐ死にたいくらいつらいのですが、ジュリエット、ていうかわたしは天才なので、人類のためにも悲劇を乗り越え、長生きしないといけないですよね。

ごめんね。タカくんの死は無駄にせず、アプリの改善につなげます。「誰に嘘をつくと死ぬか」はたしかに設定できるべきだよね。ありがとう。わたしたちの恋は儚くてばかみたいだけど無駄じゃなかったね。

ご冥福をお祈りします。シノハラサヤカの今後の活躍にご期待ください。おしまいです。

 

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