ゆらゆらタユタ

わたしのブログ

枕営業なんてしません

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あれ、西條さんですか?

わぁ嬉しいな、お久しぶりです! 今日は出張だったんですか? あぁ、あの新しいビルの案件、西條さんが担当なんだ。さすが、うちの元エース。……ううん、2年も経ってないですよ。先輩が本社に異動して、まだ1年と8ヶ月。

 

はい、今は定時過ぎたらこんな感じです。先月はわりと忙しくって、みんな残業してたんですけど。

部長ですか? 部長は今でも毎日遅くまで働いてますよ。ただ今日は、めずらしく早く帰ってますね。会食だって言ってたかな?

 

今日先輩が来たの知ったら、みんな残念がりますよ。わたし残っててラッキーだったな。……いや、わたしだけが残業っていうか、なんか色々、引き継ぎとかで……。

 

あ、違います辞めないですよ。引き継ぎ、受ける方なんです。

もうすぐ主任が産休で、わたしが後任になったんです。……いやいや、全然めでたくないです。内示もなしに、突然みんなの前で発表されて。だから引き継ぎに時間とられて、自分の仕事は定時後に。

ありえないですよね。わたしが主任だなんて笑えない。……あ、そんな。気を使わないでくださいね。実力不足は自分が1番わかってるので、大丈夫じゃないけど大丈夫です。

わたしを含めた全員が、次の主任は横井さんだと思ってたんです。本人もそのつもりだったんじゃないかな。それなのに、ほんと謎人事。



……ところで先輩。

人間って、謎を謎のままにしておけない生き物なんですね。

不可解な人事。

異例の昇進。

不出来な若手をゴリ押しの理由。

真実はいつもひとつ! 部の皆さんの見解は、枕営業でファイナルアンサー。わたしが主任になりたくて、部長と寝たってことみたいです。

 

 

……失礼だと思いませんか。わたし、仕事のために男の人と寝たりしません。男の人と寝る理由なんて、好きか、ヒマかに決まってるじゃないですか。



ていうかみんな部長のこと、尊敬してたんじゃないんですか? そういうの、仕事に持ち込みかねない人だって、前から本当は思ってたんですか?

ある日を境に、みんなわたしに冷たくなりました。でも部長への態度はいつも通りで……上司だからってのもあるでしょうけど、やっぱり納得できません。

 

だってもしも本当に、昇進したい一心でわたしが部長と寝てたとしても、最終的に人事を決めたのは部長ですよね? わたしがオフィスで裸になってあの人を誘惑したとしても、断れる立場にあったはずです。

 

すっごいバカじゃないですか? 女の裸に目がくらんで、地道に努力してきた人の……横田さんの昇進の機会を奪ったのは部長なんです。わたしじゃなくて!



……すみません、こんなこと。せっかく久しぶりなのに。いえ、ありがとうございます。

やっぱ会社近くのホテル使ったのが良くなかったです。出るところ、営業さんに見られてたみたいで。



……寝てないとは言ってませんけど……。

わたしが否定してたのは「昇進したくて」の部分であって、寝たのは単なる事実です。結構前からセフレです。いつから? えーと、多分1年くらい? かな?

 

いや、マジでそういう目的はないです。主任になりたいわけではないし、……好き? それもないですね。強いて言うならヒマでした。

 

誠に遺憾でありますが、何度部長と寝てみても、退屈は解消されませんでした。そろそろ終わりかなって思ってたところに、このサプライズ人事です。ご機嫌とりのつもりなのか、そう見せかけた嫌がらせなのか、わかんないけどどっちにしろクソ。西條さん、どうしてあんなののこと好きだったんですか?

 

嘘つかなくていいですよ。

最初は上手く隠してたのに、最後の頃はボロが出た……ていうか意図的に匂わせてましたよね?わざと垂らし、それを拭く。同類にだけ香るように。わたしじゃなきゃ見逃しちゃうねって――今のはハンターハンターですけど、つまりはそういうことです。仕事ができて、賢くて、何でも持ってる西條さんが、どうしてあんなのにこだわるのかなって、いつも不思議に思ってました。



先輩の異動は突然だったけど、本社で優秀な若手を集めてるのは事実だったし、先輩は本当にできる人でした。だから不自然ではなかったです。けど先輩。あれって部長の作戦ですよね。気持ちに歯止めが効かなくなってきた不倫相手と、キレイに距離をとるための。あの人はそういう人なんです。部下に手を出すことに抵抗ないし、女を手放すのにも手元に置くにも仕事を使うヤバい奴です。




……西條さん。

どうして今日ここに来たんですか。ひとこと連絡いれてくれたら、みんな待ってたと思います。そうしなかったのは、みんなじゃなくて、ひとりに会いたかったからですか。

 

西條さん。

どうして何でも持ってるあなたが、あんな男にこだわるんですか。これ2回目ですね、すみません。でも東京にはもっといい男が山ほどいるんじゃないですか。忘れ物をしてしまったんですか。西條さんがこだわってるのが部長本人ではなくて、失くした自分の一部であるなら、わたしはすごく安心します。

 

西條さん。

この後の新幹線、本当に取ってるんですか。誰かと会ってホテルに行くかも、なんて思ってなかったですか。マツエク行ったの最近ですよね。ネイルもすごく可愛いです。でも会食はきっと嘘ですよ。



先輩の居場所はここにはないので、もう帰ってこない方がいいと思います。今すぐ駅に向かってください。わたし西條さんになりたかったです。でも何もかも上手くいかなくて、スマートに生きるのは難しいです。ほら、早く行ってください。

 

すみません先輩、あの、わたし……。ううん、やっぱり何でもないです。出張お疲れさまでした。

 

おしまい

 

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