ゆらゆらタユタ

わたしのブログ

【書籍試し読み】殻の割れる音

大学デビューに失敗し、友達の前に彼氏ができた。恭弥くんとはじめて目が合った時、ああこの人だと思った。すぐに付き合い始め、ひとり暮らしの彼の部屋に入り浸るまで時間はかからなかった。最低限の授業への出席とバイトの時間を除き、わたしたちはずっと…

【書籍試し読み】やさしい彼氏を殴っています

最初は、いちいち張り合ってこない素直さを好ましく思った。変にアドバイスをしようとせず、人の話を最後まで聴いて、無理に結論を出そうとしないところには思慮深さを感じたし、わたしの決断や考えを尊重してくれる優しさに惹かれた。でも今は、それらすべ…

全自動お茶汲みマシーンマミコと痴漢

※記事内のamazonリンクはアフィリエイトです! マミコの会社の始業は8:30だ。間に合うように出社するには、通勤ラッシュの満員電車に乗らなくてはならない。寿司詰め状態とは言うけれど、電車に詰め込まれた人間よりは、寿司の方がまだ人権がある。マミコは…

母親には向かない人

バイトを終えての帰り道、自宅アパートが見えるところまできてハッとした。部屋の灯りがついている。はやる気持ちを抑えて階段を上り、玄関ドアの前で息を整える。バッグの内ポケットから取り出した鍵を、鍵穴に差し込む前にノブに手をかけてみる。案の定、…

モテをなめるな

……あ、ごめん。びっくりしちゃって……。 いや、だって、しっかり者の里奈から「相談がある」って呼び出されて、何かと思ったら真面目な顔で「モテたい」ってさ。すごく言いにくそうだから、何かヤバいことかとハラハラしちゃった。会社の金を使い込んだとか、…

愛されるより殴りたい!

彼とはマッチングアプリで出会ったんだけど、2回目のデートで、あ、こいつ既婚者だなってわかった。話の内容、不自然な日焼け、連絡時間……怪しいところは色々あったけど、結局は女の勘ってやつかな。 彼は自分のSNSは、一応全部鍵アカにしてたよ。 でも昔ナ…

3代目のメル

「のどかちゃん、亡くなったんだって」久しぶりの母からの電話は、幼馴染の死亡を伝えるものだった。まだ肌寒い3月の夜、彼女の遺体は近所の海辺で発見された。遺書はなく、事故とも自殺とも判断がつかないのだという。 「それで、のどかちゃんのお母さんが…

制服は守ってくれない

高校時代を思い出す時、まず頭に浮かぶのは教室ではなく通学電車だ。通学の30分間で、数えきれないほど痴漢に遭った。ある時は大学生風の男に密着され、ある時は父親よりも年上と思われる数人の男に取り囲まれた。初めて下着に手を入れられた日、教室につい…

美人は得って本当ですか #1

目が覚めると11時だった。あくびをしながら体を起こし、洗面所に向かう。冷たい水で顔を洗って、タオルで拭いてから保湿用のジェルを手に取った。ブルーの容器に入ったそれは、あまりに身なりに無頓着なわたしを見かねた母が買ってきたものだ。裏面には「忙…

チエミの彼しか欲しくない!

女友達が少ないと言うと、「きみは美人だから妬まれちゃうんだね」とか言う奴いるけどあれは何? 女に嫌われてるわたしでさえ「んなわけね〜だろ」と思う。わたしが美女なのは事実だが、友達があまりいないのは、自己中、我慢のできなさ、だらしなさ、不義理…

わたしはいつも選ばれない(とか言ってるからダメなんだろな)

わたしたちの友情が壊れたのは数年前の忘年会で、場所は地元の居酒屋だった。これといった特色のない個人経営の飲み屋で、1階が調理場とカウンター、2階が座敷になっている。 わたしとハルノ、リオナとシホとアスカの5人は中学時代の同級生だ。どんなに忙し…

女の子は痛くないので

おかしいとは思ってたんです。毎週水曜日、アキラくんの帰りは遅かった。残業だって言うんですけど、彼の職場は水曜、ノー残業デーなんです。でも、内緒でひとりの時間を持つくらい、可愛いもんじゃないですか。だから知らないフリをしてたんですね。 最初に…

燃える燃える家の夢

23歳で結婚し、1年後に義理の両親と同居をはじめた。夫の母が腰を悪くし、ひとりで祖父の介護をするのが難しくなったことが理由だった。夫は地元で再就職した。介護はわたしの仕事になった。 はじめは義母とふたりで相手をしていたが、義母は少しずつ祖父か…

「キチジョージ!!」と叫んで消えた男の話

猫も杓子もマッチングアプリ。出会いがないなんて言い訳は、令和の世では通用しない。ということでわたしも始めました。インスタで広告が流れてきた、多分みんなも知ってるアプリです。 特に美人でもないわたしでも、来るわ来るわのいいねの嵐。コンサル、会…

【書籍試し読み】母を養わない罪滅ぼしに、グッチの財布を買いました

4月の初旬、わたしは帝国ホテルのレストランにいた。ひとり約2万円のランチコース。相手は田舎から出てきた母親だった。今日のために美容院に行ったらしい母の髪は不自然なくらいに真っ黒だ。濃紺のワンピース、パールのイヤリング、小ぶりなベージュのバッ…

私と姉の運命について(後編)

単調で光の見えない暮らしだった。そんなわたしにも、唯一楽しいと感じる時間があって、それは委員会活動中だった。なりゆきで新聞委員になったわたしは、学年新聞の記事を書くこととなった。さらに副委員長を押しつけられたため、締め切り後には委員長と一…

私と姉の運命について(前編)

うちは普通ではない。最初にそれを感じたのは、小学1年生の頃だった。将来の夢は「れいばいし」だと答えたら、教室が変な空気になった。何かの漫画の影響だろうと先生は苦笑いしていたけれど、そんな漫画は読んでない。「れいばいし」は、大好きなパパの職業…

社内キャバ嬢残酷記

「まぁ君は……勝田の機嫌でもとっててよ」入社半年後の面談で、社長から言われて「そうか」と思った。 うちの会社はベンチャーで、従業員は35名。ほとんどが20代だ。社長が大手の広告代理店を辞めて独立したのが5年前。わたしは今年の新卒である。 うちの会社…

タイトル:元カレに執着されて困ってます

タイトル・元カレに執着されて困ってます 「あの家、事故物件じゃない?」 7月某日、朝6時。早朝にわたしを叩き起こした彼氏は顔面蒼白でした。パジャマのまま公園に連れ出されたので、着古したショートパンツと100均のサンダルを履いた足が寒かったのをよく…

わたしの“いいね”は五寸釘

(※性暴力の描写があります) 「そういえばこの前、田中さんに会ったんだよね」 銀座にある小さなレストラン。食後のコーヒーを飲みながら、そう言ったのはマナでした。 先日お気に入りのカフェで読書をしていたら、田中さんに声をかけられたそうです。外回…

【書籍試し読み】まだ「女の子」やってるの?

「びっくりした。まだみんな『女の子』してるんだね」 自分の口から出た言葉が、思ったよりも意地悪な響きを含んでいたので、当のわたしが驚いた。 この日は友人のマリアの結婚式だった。高校時代から華やかで目を引く存在だったマリアは、楽しみつくした20…

全自動お茶汲みマシーンマミコとセクハラ

ここ数年、コロナによって封印されていた飲み会とかいう悪しき風習が、ついに復活してしまった。マミコの勤める会社では、飲み会の出欠においてバインダーに挟んだ紙を回すという古来からの方式が採用されている。名前の横に出欠を表す◯×を記入し、×の場合は…

ダイヤモンドは傷つかない

「結婚する」と言ったとたん、目の前のナオミが小さく息を呑むのがわかった。頭に浮かんだであろう「なんで」を飲み込み、彼女はサラリと笑顔をつくる。「おめでとう!」 ナオミとわたしの出会いは中学校だから、付き合いはもう20年になる。当時は特別親しい…

被害者ヅラのアップルパイ

「あ、お疲れ」 「そっちこそ、プレゼンお疲れ様。何とかまとまって良かったじゃん」 「本当だよ。一時はどうなるかと思った」 「Twitter荒れてたもんね」 「本番直前にふたりもバックれたんだよ? 荒れるでしょ」 「まぁそれは……。でも前山さん、今日来てた…

泥棒はウソツキのはじまり

手取りが17万円で、家賃7万、光熱費1万、食費4万、スマホ代が4000円。日用品買って保険払ったらマジでいくらも残らない。別にハイブランドのバッグとかいらないし、服はユニクロかZARAでいい。気が向いた時に好きなもの食べて、毎月美容院に行けて、お金を気…

プリンセス浦和

深夜の浦和の住宅街を、行くあてもなくさまよっている。わたしは首元がダルダルになった無地のTシャツとユニクロのリラコという出で立ちで、足元はサンダル履きだった。引っ掛けてきたジェラピケのパーカーは、数十回の洗濯を経て滑らかな肌触りを失っている…

ひとり芝居【恋愛】-主演 春川ハルキ (後編)

前回の話↓ www.yoshirai.com 第三幕・窓の外 ハルキはスツールに腰掛けたまま、ぼんやりと天井に目をやった。懐かしむように一度目を閉じ、スピーカーからの『声』を待った。 ――大学に入学すると、一気に世界が開けた気がした。新たな出会いは刺激的だった。…

ひとり芝居【恋愛】-主演 春川ハルキ (前編)

第一幕・王の生誕 暗い部屋。奥正面には簡易なスツールがあり、ひとりの男が腰掛けている。年齢は30歳前後で穏やかな表情。グレーのシャツにデニムというラフな装いだが、靴や時計は高そうだ。足元には小さなリュックが転がっている。 天井のスポットライト…

母の恋人

わたしの父はとにかくやべ〜人間だった。プライドが高く他責思考で、暴力的で感情的で男尊女卑なアル中である。酒を飲むと暴れるし、酒がなくても怒り狂う。 当時の父に「アル中は依存症なので病院に行きましょう」なんて言おうもんなら死ぬほど殴られただろ…

【書籍試し読み】口裂け女に「ブス!」と叫べば

内田ゲンペイの趣味は、終わっていることに、道ゆく知らない女に向かって「ブス!」と叫ぶことだった。あと混み合う駅で大人しそうな女を狙ってぶつかりに行ったり、エレベーターで女とふたりきりになれば不必要に距離をつめ、怯える様を楽しんだりもした。…