「今日会える?」ってLINEが来たから嬉しくて、でもバレないように「じゃあ家にくる?」なんてそっけないテキストを送ったのに、返ってきたのが「いや外で会おう。話したいことがある」だったからもういっそ死んでしまいたい。これ完全に切られるやつだよね? クッソ。
約束の30分前にファミレスについた。清水くんはタバコ嫌いだけど、迷わず喫煙席を選んだ。水が来る前にタバコに火をつける。
清水くんは5つ年下のセフレ。バイト先で出会い、何かのきっかけでホテルに行った。彼はその時大学生で、童貞だった。
あれから4年……いや5年。彼が童貞を捨て、就職を決め、卒業、入社、昇進と駒を進めていったこの時間、私は何ひとつ変われなかった。最初から非処女のフリーターで、今も非処女のフリーター。
付き合う話がなかったこともないけれど、断ったのは私の方だ。あの頃は本当に、遊びのつもりだったのだ。
……もう一度、付き合おうと言ってくれたら。自分から動く勇気もなく、数年間も薄く期待し続けた結果がこれです。ため息をついてタバコを灰皿に押し付けた。
セフレの極意は『都合よく、めんどくさくなく、油断せず』(575になっててウケる)。
彼に切られないように、誘われれば時間をひねり出した。あまり自分から連絡をせず、彼女に嫉妬する素振りも見せず。その他もろもろの努力を、彼の前ではひとつもしてない顔をした。あぁ、なんて健気な『特別』なセフレ!
待ち合わせまであと10分。お別れまでのカウントダウンだ。彼は時間に正確だから、遅れることはないだろう。鼻をかむふりして、滲んだ涙をナプキンでぬぐう。
いや、でも、これから来る清水くんが花束なんかを買ってきて、「やっぱりちゃんと付き合おう」なんて言う可能性も……ないな。流石にそこまでポジティブになれない。
ちゃんとした始まりがなかったのに、終わりはちゃんとしたがるというか、こうして面と向かって話す機会を作るのがすごく清水くんっぽい。そういうところがちょっと……いや、けっこう好きだった。
待ち合わせまであと5分。
何であれ、最後まで『都合よく、めんどくさくなく、油断せず』、だ。未練なんてないって態度で、ちょっと呆れたみたいな顔で、だるそうに彼の話を聞いて、薄く笑って頷いて、「わざわざそんなこと言いに来たの?」。私は言える。大丈夫。わざわざそんなこと、わざわざそんなこと、そんな、どうでもいいこと、を……。
「美奈さん、お疲れ。待った?」
待ち合わせ時間ちょうどだった。私は笑顔を作って無難な挨拶を口にした。清水くんはコーヒーを頼んだ。あ、すぐ帰る気ですね。させねーよ。「鉄板焼ハンバーグください!!」。
いつも通り会話してたのに、ハンバーグの鉄板が下げられたタイミングで、沈黙。清水くんのコーヒーは3杯目だった。カップを置いた彼が、何かを決意したみたいに、まっすぐに私の目を見る。あぁダメだ。マジでフラれる5秒前。あの唇が動きだす前に、何か言わなくてはいけない。決定的な別れの言葉を、1秒でも先延ばしにしたい。何でもいい。天気の話でも、不倫した芸能人の話でも。それなのに、自分の口から飛び出した言葉に、私自身が驚いた。
「ねぇ清水くん、結婚しようか」
おしまい
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