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マミコの会社の始業は8:30だ。間に合うように出社するには、通勤ラッシュの満員電車に乗らなくてはならない。寿司詰め状態とは言うけれど、電車に詰め込まれた人間よりは、寿司の方がまだ人権がある。マミコはなるべく小さな寿司となるべく肩を縮めていつもの車両に乗り込んだ。
電車が動き出してすぐ、マミコは下半身に違和感をおぼえた。誰かがマミコの尻のあたりに触れている。感触からして手の甲だろうか。混んでいるから仕方がないという思いと、もしかしたらと嫌な予感が交差する。マミコが抵抗せずいると、相手は感触を確かめるようにマミコの尻に手を押し当ててきた。あっと思ったのも束の間、今度は背後に生ぬるい熱を感じた。相手が膝を曲げているのか、太ももから背中にかけてが隙間なく重なっている。いわゆる密着痴漢というやつだ。
マミコの頭からスッと血が引く。やめてください、と言いたいのに声が出ない。だって、電車の中で故意に他人の体に密着する人間がまともなわけがない。そんな人間がナイフを持っていないとは限らないし、咎められた瞬間に激昂しないとは言い切れない。そういう人間はきっと犬猫をいじめるし、欲しくもないものも万引きをするし、芸能人の悪口をネットに書くし、老人から金を騙しとり、あらゆる番組を違法視聴していて、この電車にもどうせ無賃乗車をしている。とにかくやべえやつに決まっている。だから刺激してはいけないのだ。後頭部をつつかれるような感覚があるのは、おそらく相手の鼻が当たっているのだろう。マミコは痴漢に嗅がせるためにいい香りのするukaのrainy walkのヘアオイル(※1)をつけてきたわけではない。マミコは全自動通勤マシーンとして、足をぴっちりと閉じて体を固くし、背後の痴漢が落ちるべき20000種類の地獄について思いを馳せた。
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