ゆらゆらタユタ

アラサーとゆとりを取り巻くもろもろ

件名:先日の別れ話について

f:id:yoshirai:20201119192451p:plain

 

2020年11月18日 10時15分

件名:先日の別れ話について

宛先:今泉 衛

差出人:水野 鈴香

今泉さん

お疲れ様です、恋人の水野鈴香です。

先週金曜、今泉さんからの唐突な『別れよう』というLINEに対し、何度か問い合わせをしておりますが、ご回答をいただけませんので社内メールにてご連絡差し上げました。


仮にも3年間も交際した恋人に別れを告げる際、手段としてLINEを選ぶのは、大人としての常識に欠けると存じますがいかがでしょうか。速やかに対面での協議を行いたく、日程の提案をいたします。


また、添付資料には、私と今泉さんが今後も交際関係を継続し、1年以内に結婚すべき理由をまとめておりますのでご確認くださいませ。ご返信の際、LINEをブロックした理由もご教授くださいますと幸いです。


2時間以内にご返信いただけない場合、CCに開発部のグループメールのアドレスを入れて再送させていただきます。

どうぞよろしくお願いいたします。

(添付ファイル・別れない理由3.ppt)

---------------------------------
株式会社白井システム

営業部 水野 鈴香(みずの すずか)

---------------------------------

続きを読む

全自動お茶汲みマシーンマミコとマッチングアプリ

f:id:yoshirai:20201116200737p:plain
ごめんねマミコ、アプリ退会しちゃいました。

 

会って早々、ドリンクが運ばれてくる前に、レナは申し訳なさそうに言った。レナはマミコの高校時代からの友人で、今は大学職員として働いている。

   

アプリというのは、いわゆるマッチングアプリである。3年間彼氏のいないレナがアプリをインストールしたのは先月のこと。マミコはレナのプロフィール写真を撮影し、ほどよい加工を施して、ウケの良さそうな自己紹介文のライティングまでを請け負った。なぜならレナは放っておいたら証明写真みたいな無表情の写真と、履歴書みたいなテキストで登録しかねないからである。

 

その甲斐あって、登録直後からさばききれないくらいのいいね! が来た。レナは必死にスワイプを繰り返し、先月の土日はほとんどデートで埋めたらしい。……が、今はアプリを退会し、すべての男性と連絡を絶ってしまったと言う。

 

いい人いなかった? とマミコが問うと、そんなことないとレナは苦笑した。そんなことない。……ないと思う、と記憶を掘り返すようにして。

会った男性は全部で5人。写真と印象の違う人はいたものの、そんなのはどうでもいいらしい。みんな良い人で、楽しませようとしてくれてるのがわかったと。

 

でも……。

 

レナは少し間をとって、コーヒーカップに指をかける。

 

わたしには合ってなかったんだ。人として好きになる前に、異性としてジャッジしなきゃならないのがしんどくて。

続きを読む

はいはい、わたしがやりました。

はいはい、わたしがやりました。

え、サオリさんがネットで中傷? インスタですか? うそ、フリマアプリまで? なんだか最近、投稿少なくなったなとは思ってたんですけど……そういうことだったんですね。

 

うわぁ、かなり酷いですね。サオリさんあんなに良い人なのに。こういうのって、やっぱ見ず知らずの人なのかなぁ。知り合いだったら嫌ですね。



え? 犯人わかったんですか。誰……え? わたし? ……ですか?

ちょっと、ちょっと待ってくださいよ。わたしは入社当初から、サオリさんにはすごくお世話になってます。そんなことするわけないじゃないですか。

 

…………。

 

……あっそ。マジでバレてんだ。はいはい、わたしがやりました。で、今日の目的は何です? サオリさんこの場にいないのに、まさか謝れなんて言わないですよね。……そうですか。中傷してたのがわたしだって、サオリさんはまだ知らないんですね。

 

どうしてあんなことしたのかって?

あーあ、それ聞いちゃうんですね。でも聞けちゃうのがミツキさんで、そういうミツキさんだからこそ、あの人と仲良くできるんでしょうね。



サオリさんを見てるとイライラします。

良い人なのはわかってますよ。いつも優しいし、何度も助けてられました。でもあの人が優しいのって、余裕があるからじゃないですか。

続きを読む

さよなら店長、地獄行き

f:id:yoshirai:20200923022238p:plain

「次に付き合う人の人生は、めちゃくちゃにしようと思ってるんです」

 

休憩中、成り行きで一緒にお弁当を食べることになった島本さんの発言に、あやうくお箸を落とすとこだった。島本さんはわたしと同じ本屋で働くアルバイト。学生の頃からこの店にいて、勤続年数は10年に届くとか。

 

島本さんは感情に乏しく、何を考えているかわらない人だ。しつこいクレーマーに絡まれた時も、いつもの虚無顔で「はぁ」「そうですか」と繰り返していたのが印象的だった。……そんな彼女とふたりきりになった昼休憩で、「島本さんって彼氏いるんですか」なんて口に出したのが間違いだった。沈黙が気まずい関係で、していいような質問じゃない。

「いませんけど」

それが何か? という顔だった。わたしはなんだか焦ってしまい、「そうですか、島本さんモテるからてっきり……」とか、「よくお客さんに連絡先渡されてますもんね?」「わたしそういうの一度もないから」なんて余計なことまで喋ってますます空回りした。最悪。お昼、外で食べれば良かった。……そんなことを思っていた時、島本さんが放ったのが冒頭のあの言葉だった。「次に付き合う人の人生は、めちゃくちゃにしようと思ってるんです」。

 

「……はい?」

「金子さんって、男の人が好きですよね」

お箸で卵焼きを摘んだまま、島本さんがわたしに視線を向ける。男の人が好き? まぁ、異性愛者って意味ではそうか。……いや、単に男好きって言われてるのか? もしかしてわりと嫌われて……?

 

「気を悪くしたならごめんなさい。でも悪い意味じゃないんです」

心を読まれたようでドキッとする。水筒のお茶を注ぎながら、島本さんは言葉を続けた。

 

「わたしは……この通り地味なので、モテない人からは『俺でもイケそう』、モテる人からは『俺なら当然イケる』と思われる、そういうポジションなんですよ。だから声をかけられることは多いです。これをモテると言うならば、わたしはきっとモテるんでしょうね」

続きを読む

わたしが好きなら死んでくれ

f:id:yoshirai:20200921055653p:plain

8年越しの片思いが実り、ショウくんに好きだと言われた瞬間、「今すぐ死んでくれ」と思った。

高校の入学式で一目惚れしたショウくんには当時幼なじみの彼女がおり、それがまた、可愛くて健気で素敵な子だった。そんなふたりのピュアでじれったく、少女漫画みたいな恋に割って入るのは、ほんっっっとうに胸が痛んだけれど、彼を手に入れると決めた時から、わたしは鬼で悪魔で修羅となり、倫理の果てまで行ってQ。犯罪以外は……まぁ一部はギリギリっていうか、アウトだったかもしれないですが……とにかくできることは何でもやった。「大きくなったら結婚しようね」。わたしの存在さえなければ、ふたりは幼い頃の約束をまっとうしていたことでしょう。

 

わたしはショウくんが大好きで、ショウくんを振り向かせるためにダイエット、メイク、ファッションで可愛い自分を作るのはもちろん、猛勉強してショウくんと同じ大学に入り、その後も研究、就活、人間関係、あらゆる努力を惜しまなかった。すべての理由はショウくんで、「ショウくんの視界と世界にいたい」以外の動機は一切なかった。

 

ショウくんが好きだ。鮮烈な一目惚れ以来、気持ちは色あせるどころか濃くなって、毎日大好きを更新中。顔が好き。背の高さが好き。カバーのかかった文庫本が常に鞄に入ってるとこが好き。喋り方が、努力家なところが、誰に対しても態度を変えないところが、初めての彼女と10年続いた一途さが好き。ショウくん以上の人はいないし、いてもわたしはショウくんが好きだ。ショウくんが総理になっても好きだし、犯罪者でも愛してる。

続きを読む

うさぎとカメ#カメのかなめちゃん

f:id:yoshirai:20200913073515p:plain

こちらの話とリンクしています

 

昔々、従姉妹と一緒にお受験し、ひとりだけ落ちた女の子がいました。わたしです。

 

「ほら、うさぎとカメなのよ。うちの子うさぎなだけだから」

親族のお花見で、ほろ酔いの叔母さんがそう言った瞬間、わたしは『カメちゃん』になった。帰りの車の中、母が怒り狂っていたのをよく覚えている。

「あの子は昔から無神経で、母親になってもそのまんま!」

「子供の前であの物言い!」

なんだか申し訳なくなって、「ごめんなさい」と謝ると、「あんたは悪くない!」と怒鳴られた。どう考えても「あんたが悪い!」のトーンだった。


『うさぎとカメ』の一件は、うちの母親の対抗意識にドバドバと油を注いで燃え上がらせた。中学も高校もうさぎちゃんのところを受けさせられ、つきつけられた不合格通知に母親は比喩でなく絶叫した。

大学は行きたい学部があったので、初めて自分の意思でうさぎちゃんのいる大学を受けた(母も受けさせるつもりだったろうが)。四度目の正直で合格した時は、嬉しいよりも安堵が勝った。

 

キャンパスで見かけるうさぎちゃんは、いつも友達に囲まれていた。わたしが研究に追われている間、うさぎちゃんは他大の彼氏にレポートの代筆をさせていた。生まれた時からの付き合いで、彼女の悔しそうな顔を見たのは一度だけ。就活で本命企業……今わたしが勤める化粧品メーカーに落ちた時だけだった。

今の会社の内定が出た時、1番喜んだのは母親だ。「やっと勝てたね!」とはしゃいだ母は、10代の少女みたいだった。……一緒に住んでるわけでもないのに、姪の第一志望の企業なんて、あの人はどこで知ったんだろうか。

 

うさぎちゃんは今、金融系の事務職として働いている。実家暮らしなので余裕があって、海外旅行にもよく行っている。インスタを見てると、こんなキラキラした女の子が親戚だなんて信じられない気持ちになる。


待ち合わせ時間を少し過ぎ、うさぎちゃんがお店に入ってきた。小柄でも華奢でバランスの良い体、長い髪と大きな目。大学生っぽい店員さんが「おっ」という目で彼女を追う。そんな視線を当然のように受け流したうさぎちゃんが、開口一番「綺麗になった?」なんて言うので、ひとりでドギマギしてしまった。自分が言われ慣れているからか、彼女は他人をよく褒める。

 

「コスメに囲まれてるからかな? なんだか垢抜けたみたい」

屈託なく言ううさぎちゃんに、わたしは内心苦笑していた。……第一志望に入れたは良いが、近頃パッとしない日々が続いていた。例年よりも優秀らしい同期の中で、すでに浮き始めている自覚はある。「入社時の資料だけ見ると、君が1番有望なんだけど」。上司の困惑顔が頭をちらつく。能力なんかは置いといて、同期たちと違うのはやる気とか情熱とか、そういう類のものだろう。あれがしたい、これが作りたいと目を輝かせる同期の中で、わたしは本当に空っぽだった。

 

「わたしの所は開発だから、やることは地味なんだけどね」

……それなのに、今日のわたしは饒舌だった。

地味な研究が何につながり、どんなことに役立つのか。優秀な同期や先輩、頼れる上司のいる環境。日本有数の設備と実績。仕事の良い面、誇れる面ばかりがなめらかに口から放たれて、わたし自身も驚いていた。

うさぎちゃんがすごいすごいと聞いてくれるので、ついつい話し過ぎてしまう。うさぎちゃんの「すごい」は軽く、「へぇ」とか「うん」とほとんど同じ。ようは相槌なんだけど、わかっていても嬉しくなってしまう。

ひと息ついて気を落ち着かせ、聞き役に徹してくれていた彼女に仕事の話を振ってみると、「普通」とだけ返された。今はそれより、彼氏と住む部屋探しに夢中だという。

うさぎちゃんの彼はエンジニアで、すごく仕事の出来る人らしい。人格的にも申し分なく、経済的にも豊かなのが話の端々から伝わってくる。


……うさぎちゃんがハイスペックな彼氏と同棲。頬を引きつらせる母親の顔が頭に浮かんだ。母が知ったらなんて言うだろう。やっと学歴・就職レースが終わったのに、今度は恋愛・結婚レースが始まってしまう。いや、そもそもレースを続行中な気でいるのはカメたちだけだ。きっとうさぎの親子はそんな話があったことすら忘れている。

続きを読む

うさぎとカメ#うさぎのサキちゃん

f:id:yoshirai:20200913062630p:plain

いとこのカメちゃんとは、小さい頃から仲良しだった。カメちゃんというのはもちろんあだ名で、童話のうさぎとカメからきている。


わたしとカメちゃんの母親どうしが姉妹で、娘のわたしたちは同い年。自分で言うのも何だけど、わたしは容姿とコミュ力にそれなりに――この『それなり』がわたしを後々苦しめるのだけど――恵まれた、要領の良い子供だった。幼稚園に行きたくなくてカメちゃんが毎朝泣いていた頃、わたしはお遊戯会の主役を嬉々としてこなしていた。


ふたりで同じ小学校を受験して、わたしだけが合格した。親戚が集まる場で、優越感を隠しきれずに「ほら、うさぎとカメなのよ。うちの子うさぎなだけだから」「将来きっと抜かされちゃうわ」と笑ったママ。それを悪気のない発言としてフォローしたパパは、本当に幸せな人だと思う。


わたしが苦労なく大学まで進学する間に、カメちゃんは中学受験も失敗し、高校は都内の私立に進み、大学は現役でわたしと同じ大学に来た。学部が違うので一緒に行動することはなかったけれど、会えば他愛のないおしゃべりをした。就活がうまくいかなかったわたしは、3年前から某金融機関の子会社で働いている。院に進んだカメちゃんは、この春から有名な化粧品会社の開発職に就いた。

 

 

「お茶しない?」と連絡があったのは先月の終わり。気は進まないけど会うことにした。断る理由も尽きていた。


念入りにメイクして、わざと遅れてお店に入った。「ごめんね、待った?」と声をかけると、「大丈夫だよ」とカメちゃんは微笑む。ブラウンのリップが可愛くて似合っている。素直に口にしたくはなかった。でも褒めないのも意識してるみたいで癪だったから、仕方なく、何にも考えてない顔で言う。「あれ、なんだか綺麗になった?」


「コスメに囲まれてるからかな? なんだか垢抜けたみたい」

「そうかな……わたしの所は開発だから、やることは地味なんだけどね」

照れて笑うカメちゃんが、目を伏せて髪の毛を耳にかけた。短い爪はトレンドの色で塗られているし、黒髪の手入れも行き届いている。メイクは薄めだけど、全体的に透明感がある。本当に、綺麗だと思った。でもこれ以上は言ってあげない。

 


希望の部署に配属されたらしく、仕事を語るカメちゃんは生き生きしていた。内容は半分以上理解できなかったけど、とにかく多忙で充実した日々を送っているらしい。わたしは虚無の「すご〜い」を繰り返し、カメちゃんが満足するのを待った。


「そっちはどう? もう3年目だよね」

尋ねるカメちゃんのまっすぐな目。すべての人間がやりがいや向上心を持って働いていると信じている顔。「そうですね、やはり後輩も増えて仕事の幅が……」とか言えばいい? わたしみたいに何の目標もなくデータを処理し続けるOLがいるなんて、きっとご存知ないのでしょうね。

続きを読む