ゆらゆらタユタ

アラサーとゆとりを取り巻くもろもろ

さよなら店長、地獄行き

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「次に付き合う人の人生は、めちゃくちゃにしようと思ってるんです」

 

休憩中、成り行きで一緒にお弁当を食べることになった島本さんの発言に、あやうくお箸を落とすとこだった。島本さんはわたしと同じ本屋で働くアルバイト。学生の頃からこの店にいて、勤続年数は10年に届くとか。

 

島本さんは感情に乏しく、何を考えているかわらない人だ。しつこいクレーマーに絡まれた時も、いつもの虚無顔で「はぁ」「そうですか」と繰り返していたのが印象的だった。……そんな彼女とふたりきりになった昼休憩で、「島本さんって彼氏いるんですか」なんて口に出したのが間違いだった。沈黙が気まずい関係で、していいような質問じゃない。

「いませんけど」

それが何か? という顔だった。わたしはなんだか焦ってしまい、「そうですか、島本さんモテるからてっきり……」とか、「よくお客さんに連絡先渡されてますもんね?」「わたしそういうの一度もないから」なんて余計なことまで喋ってますます空回りした。最悪。お昼、外で食べれば良かった。……そんなことを思っていた時、島本さんが放ったのが冒頭のあの言葉だった。「次に付き合う人の人生は、めちゃくちゃにしようと思ってるんです」。

 

「……はい?」

「金子さんって、男の人が好きですよね」

お箸で卵焼きを摘んだまま、島本さんがわたしに視線を向ける。男の人が好き? まぁ、異性愛者って意味ではそうか。……いや、単に男好きって言われてるのか? もしかしてわりと嫌われて……?

 

「気を悪くしたならごめんなさい。でも悪い意味じゃないんです」

心を読まれたようでドキッとする。水筒のお茶を注ぎながら、島本さんは言葉を続けた。

 

「わたしは……この通り地味なので、モテない人からは『俺でもイケそう』、モテる人からは『俺なら当然イケる』と思われる、そういうポジションなんですよ。だから声をかけられることは多いです。これをモテると言うならば、わたしはきっとモテるんでしょうね」

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わたしが好きなら死んでくれ

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8年越しの片思いが実り、ショウくんに好きだと言われた瞬間、「今すぐ死んでくれ」と思った。

高校の入学式で一目惚れしたショウくんには当時幼なじみの彼女がおり、それが可愛くて健気で素敵な子だった。そんなふたりのピュアでじれったく、少女漫画みたいな恋に割って入るのは、ほんっっっとうに胸が痛んだけれど、彼を手に入れると決めた時から、わたしは鬼で悪魔で修羅となり、倫理の果てまで行ってQ。犯罪以外は……まぁ一部はギリギリっていうか、アウトだったかもしれないですが……とにかくできることは何でもやった。「大きくなったら結婚しようね」。わたしの存在さえなければ、ふたりは幼い頃の約束をまっとうしていたことでしょう。

 

わたしはショウくんが大好きで、ショウくんを振り向かせるためにダイエット、メイク、ファッションで可愛い自分を作るのはもちろん、猛勉強してショウくんと同じ大学に入り、その後も研究、就活、人間関係、あらゆる努力を惜しまなかった。すべての理由はショウくんで、「ショウくんの視界と世界にいたい」以外の動機は一切なかった。

 

ショウくんが好きだ。鮮烈な一目惚れ以来、気持ちは色あせるどころか濃くなって、毎日大好きを更新中。顔が好き。背の高さが好き。カバーのかかった文庫本が常に鞄に入ってるとこが好き。喋り方が、努力家なところが、誰に対しても態度を変えないところが、初めての彼女と10年続いた一途さが好き。ショウくん以上の人はいないし、いてもわたしはショウくんが好きだ。ショウくんが総理になっても好きだし、犯罪者でも愛してる。

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うさぎとカメ#カメのかなめちゃん

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こちらの話とリンクしています

 

昔々、従姉妹と一緒にお受験し、ひとりだけ落ちた女の子がいました。わたしです。

 

「ほら、うさぎとカメなのよ。うちの子うさぎなだけだから」

親族のお花見で、ほろ酔いの叔母さんがそう言った瞬間、わたしは『カメちゃん』になった。帰りの車の中、母が怒り狂っていたのをよく覚えている。


「あの子は昔から無神経で、母親になってもそのまんま!」

「子供の前であの物言い!」

なんだか申し訳なくなって、「ごめんなさい」と謝ると、「あんたは悪くない!」と怒鳴られた。どう考えても「あんたが悪い!」のトーンだった。


『うさぎとカメ』の一件以降、母親は叔母さんに対抗意識を燃やしていた。中学も高校もうさぎちゃんのところを受けさせられ、つきつけられた不合格通知に母親は比喩でなく絶叫した。

大学は行きたい学部があったので、初めて自分の意思でうさぎちゃんのいる大学を受けた(母も受けさせるつもりだったろうが)。四度目の正直で合格した時は、嬉しいよりも安堵が勝った。

 

キャンパスで見かけるうさぎちゃんは、いつも友達に囲まれていた。わたしが研究に追われている間、うさぎちゃんは他大の彼氏にレポートの代筆をさせていた。生まれた時からの付き合いで、彼女の悔しそうな顔を見たのは一度だけ。就活で本命企業……今わたしが勤める化粧品メーカーに落ちた時だけだった。

今の会社の内定が出た時、1番喜んだのは母親だ。「やっと勝てたね!」とはしゃいだ母は、10代の少女みたいだった。……一緒に住んでるわけでもないのに、姪の第一志望の企業なんて、あの人はどこで知ったんだろうか。

 

うさぎちゃんは今、金融系の事務職として働いている。実家暮らしなので余裕があって、海外旅行にもよく行っている。インスタを見てると、こんなキラキラした女の子が親戚だなんて信じられない気持ちになる。

今日は約半年ぶりの再会だった。うさぎちゃんが好きそうな可愛いカフェを予約したけど、自分が浮いていないか心配になった。


待ち合わせ時間を少し過ぎ、うさぎちゃんがお店に入ってきた。小柄でも華奢でバランスの良い体、長い髪と大きな目。大学生っぽい店員さんが「おっ」という目で彼女を追う。そんな視線を当然のように受け流したうさぎちゃんが、開口一番「綺麗になった?」なんて言うので、ひとりでドギマギしてしまった。自分が言われ慣れているからか、彼女は他人をよく褒める。

 

「コスメに囲まれてるからかな? なんだか垢抜けたみたい」

屈託なく言ううさぎちゃんに、わたしは内心苦笑していた。……第一志望に入れたは良いが、入社以降はパッとしない日々が続いていた。例年よりも優秀らしい同期の中で、すでに浮き始めている自覚はある。「入社時の資料だけ見ると、君が1番有望なんだけど」。上司の困惑顔が頭をちらつく。能力なんかは置いといて、同期たちと違うのはやる気とか情熱とか、そういう類のものだろう。あれがしたい、これが作りたいと目を輝かせる同期の中で、わたしは本当に空っぽだった。

 

「わたしの所は開発だから、やることは地味なんだけどね」

……それなのに、今日のわたしは饒舌だった。

地味な研究が何につながり、どんなことに役立つのか。優秀な同期や先輩、頼れる上司のいる環境。日本有数の設備と実績。仕事の良い面、誇れる面ばかりがなめらかに口から放たれて、わたし自身も驚いていた。

うさぎちゃんがすごいすごいと聞いてくれるので、ついつい話し過ぎてしまう。うさぎちゃんの「すごい」は軽く、「へぇ」とか「うん」とほとんど同じ。ようは相槌なんだけど、わかっていても嬉しくなってしまう。

ひと息ついて気を落ち着かせ、聞き役に徹してくれていた彼女に仕事の話を振ってみると、「普通」とだけ返された。今はそれより、彼氏と住む部屋探しに夢中だという。

うさぎちゃんの彼はエンジニアで、すごく仕事の出来る人らしい。人格的にも申し分なく、経済的にも豊かなのが話の端々から伝わってくる。


……うさぎちゃんがハイスペックな彼氏と同棲。頬を引きつらせる母親の顔が頭に浮かんだ。母が知ったらなんて言うだろう。やっと学歴・就職レースが終わったのに、今度は恋愛・結婚レースが始まってしまう。いや、そもそもレースを続行中な気でいるのはカメたちだけだ。きっとうさぎの親子はそんな話があったことすら忘れている。

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うさぎとカメ#うさぎのサキちゃん

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いとこのカメちゃんとは、小さい頃から仲良しだった。カメちゃんというのはもちろんあだ名で、童話のうさぎとカメからきている。


わたしとカメちゃんの母親どうしが姉妹で、娘のわたしたちは同い年。自分で言うのも何だけど、わたしは要領のいい子供だった。あと容姿とコミュ力にもそれなりに――この『それなり』が後々わたしを苦しめるのだけれど――恵まれていた。幼稚園に行きたくなくて毎朝泣いていたカメちゃんに対し、わたしはお遊戯会の主役を嬉々としてこなす子どもだった。


ふたりで同じ小学校を受験して、わたしだけが合格した。親戚が集まる場で、嬉しさと優越感を隠しきれずに「ほら、うさぎとカメなのよ。うちの子うさぎなだけだから」「将来きっと抜かされちゃうわ」と笑ったママ。それを悪気のない発言としてフォローしたパパは、本当に幸せな人だと思う。


わたしが特に苦労なく中高大と進学する間に、カメちゃんは中学受験も失敗し、高校は都内の私立に進み、大学は現役でわたしと同じ大学に来た。学部が違うので一緒に行動することはなかったけれど、会えば他愛のないおしゃべりをした。就活がうまくいかなかったわたしは、3年前から某金融機関の子会社で働いている。院に進んだカメちゃんは、この春から化粧品会社の開発職に就いた。

 

 

「お茶しない?」と連絡があったのは、先月の終わりのことだった。気は進まないけど会うことにした。断る理由も尽きていた。


念入りにメイクして、わざと10分遅れてお店に入った。「ごめんね、待った?」と声をかけると、「大丈夫だよ」とカメちゃんは微笑む。ブラウンのリップが可愛くて似合っている。素直に口にしたくはなかった。でも褒めないのも意識してるみたいで癪だったから、仕方なく、何にも考えてない顔で言う。「あれ、なんだか綺麗になった?」


「コスメに囲まれてるからかな? なんだか垢抜けたみたい」

「そうかな……わたしの所は開発だから、やることは地味なんだけどね」

照れて笑うカメちゃんが、目を伏せて髪の毛を耳にかけた。短い爪はトレンドの色で塗られているし、黒髪の手入れも行き届いている。メイクは薄めだけど、全体的に透明感がある。本当に、綺麗だと思った。でももう言ってあげるつもりはない。

 


希望の部署に配属されたらしく、仕事を語るカメちゃんは生き生きしていた。内容は半分以上理解できなかったけど、とにかく多忙でも充実した毎日を送っているらしい。わたしは虚無の「すご〜い」を繰り返し、カメちゃんが満足するのを待った。


「そっちはどう? もう3年目だよね」

尋ねるカメちゃんのまっすぐな目。すべての人間がやりがいや向上心を持って働いていると信じている顔。「そうですね、やはり後輩も増えてやりがいが……」とか言えばいい? わたしみたいに何の目標もなくデータを処理し続けるOLがいるなんて、きっとご存知ないのでしょうね。

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テニス、セックス、ヘッドスパ

テニス、セックス、ヘッドスパ

30になってもセックスの良さがイマイチ分からず、女友達が絶賛するセフレと寝てみることにした。


「絶対に好きになりません」

「セックスは1回きりです」

「連絡先は消去します」


そんな念書まで書かされたので、「ランちゃんが彼を好きなら遠慮するよ」と言ってみたのだけど(わたしは『友達のセフレ』とは寝れても『友達の好きな人』とは絶対に寝ない、わりかし硬派な女なのである)、「そんなわけないじゃん」と返されて、その顔は少し引きつっていたような気はするけれど、「友達とセフレをシェアってのも気持ち悪いじゃん?」「こっちが会えなくなるのも嫌だし」「彼はわたしの……わたしの、いつでもセックスできる、都合のいい男なんだから」という、「わたしが好きなのはあくまでも、『彼とのセックス』なんですよ?」を強調しまくる念押しの後で、微妙に盛れていないわたしの写真がセフレの彼に送信された。返信は10分たたずに来た。


「今日でもいいよ。18時以降にウチでヨロシク」

グーグルマップで住所を共有。デキる男はスムーズである。


それから30分くらい、ちょっと不機嫌になったような、そうでもないようなランちゃんに「まぁ上手いって言っても相性はあるけど」「ちょっと小汚い感じだし、あなたのタイプじゃないかもね?」などと言われながらお茶をして、わたしは男と寝るため店を出た。

 

知り合いの紹介とはいえ、初対面の女に警戒心ゼロで住所を教えるランちゃんのセフレは、確かに長髪でヒゲを生やしていたが、不潔な印象はまるでなかった。むしろベースは塩顔イケメンに属する顔で、わたしは逆にがっかりした。いかにもランちゃんの好きそうな男だ。ホンマにセックス上手いんでっか? 顔面ボーナスちゃいまっか?

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全自動お茶汲みマシーンマミコと指輪とセックス、あと殺意

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テツくんの言う、今日家行ってもいい? が今日生理じゃないよね? の意味だと知ったのは、大学3年の頃だった。

 

家に行ってもいい? を言葉通りの意味だと誤解した当時のマミコは、生理中にも関わらずテツくんを招いて夕食をふるまい、マークスアンドウェブのハーバルバスシュガーを入れたいい匂いがする風呂を貸し(※1)、パジャマを用意するという大失態を犯してしまった。

 

並んでDVDを見ている最中に、彼がマミコの肩に手を回す。頬や耳元に唇が触れる。テレビ消そっか、と言う彼に、生理中だと伝えた途端、部屋の温度が下がった気がした。テツくんはマミコに触れていた手を離し、普通そういうの先に言わない? と無知なマミコに社会常識を教えてくださった。さらに不機嫌になりつつも、別にいいけど、と寛大な許しまで与えてくださったのである。マミコの胸は感動に震え、自然と出た言葉はこうだった。ごめんね。今日は口でもいい?

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全自動お茶汲みマシーンマミコとマミコをぺしゃんこにする男

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驚くべきことに、最近のマミコはひとりの男に入れあげている。テツトくん。広告代理店に勤めるサラリーマンで、マミコの大学時代の元カレである。

 

テツトくんとは大学3年から、1年半ほど付き合った。マミコが今の会社へ入社を決めるにあたって、彼と結婚する可能性はひとつのポイントだったりしたが、就職してすぐあっさりフラれた。他に好きな人ができました。お前と違って頭が良くて自立した子です。お前とは同じレベルの議論ができないし、一緒にいてストレスだった。別れ話では、だいたいそんなことを言われた。1年後には婚約したらしいと聞いたが、現在マミコの前にいる彼の左手に指輪はない。

 

数ヶ月前、何の前触れもなく連絡がきた。実に数年ぶりだった。食事の日程を決めてから、マミコは全力で美容にコミットした。吟味に吟味を重ねた結果、ファンデはイプサのファウンデイションアルティメイトにした。多少値は張るがコスパは超絶、重ね塗りしても不自然さゼロ、時間が経つと更に馴染んでツヤツヤ。2月の時点で今年のベストコスメが決定した(※1)。目元にはルナソルのマカロングロウアイズを使い、ちょっと泣いた後みたいな赤みを足した(※2)。

 

その甲斐あって、再会は大成功だった。テツトくんは今の彼女といても安らげないんだよな……みたいな戯言を言い、マミコはマミコでテツトくんのこと、ずっと忘れられなくて……みたいな寝言をほざいた。そして、やっぱりマミコといると落ち着く……みたいなことを言いながら彼がマミコの手を握り、わたしも……とマミコは涙をうかべてはにかんだ。

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