大学デビューに失敗し、友達の前に彼氏ができた。恭弥くんとはじめて目が合った時、ああこの人だと思った。すぐに付き合い始め、ひとり暮らしの彼の部屋に入り浸るまで時間はかからなかった。最低限の授業への出席とバイトの時間を除き、わたしたちはずっと一緒にいた。
開け閉めするたび不穏な音を立てきしむ窓、狭くてチャチなユニットバス、染み付いてしまった煙草の匂い。大学時代の思い出はほとんど、あの狭いアパートの部屋の中にある。恭弥くんの部屋には大きな本棚があったけれど、そこに収まりきらない本や漫画がそこかしこに積んであった。それらはすべて、後世のクリエイターや恭弥くん自身に影響を与えた本だと言う。合わないものも多かったけれど、いくつかの作品は、心にすっと染み入ってわたしの一部になった気がする。
恭弥くんはファッションと文学、映画が好きな人だった。わたしは別にお洒落じゃないしサブカルに詳しくもなかったけれど、変に主張のないところが良かったらしい。恭弥くんの選んだ服を着て、おすすめされた映画を観て、わたしはどんどん彼の色に染まった。ずっと伸ばしっぱなしだった髪をモードなボブにカットした時、自分でもぐっと垢抜けたのがわかった。新しい自分になれた気がした。頭が空っぽな同級生たちとは違う、かっこよくて芯の強い特別な女の子に。
……付き合い始めるのがせめて1年遅かったら、もう少し周りに馴染めていた気がする。わたしたちは入学早々にふたりで殻にこもってしまった。
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