ゆらゆらタユタ

アラサーとゆとりを取り巻くもろもろ

わたしたちは友達なので

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「いじめられてるの?」なんて訊かれて「はい」って言える人間が、言えると思ってる人間が、わたしはまったく理解できない。

 

担任の徳田先生は、言えると思ってる側の人らしかった。平静を装っているけれど瞬きが多いし、机の上で組んだ手の動きが忙しない。日直を口実に、放課後に呼ばれた国語科準備室は、先生の人柄を表すようにほどよく整理されていた。でもよく見ると本棚に埃が積もっているし、隅の段ボール箱は何年も開封されてないみたいだった。

 

先生の顔をじっと見つめる。色白の丸顔。不自然なくらいに黒い髪はきっと白髪染め。眉の描き方がやや古いけど、口紅の色は肌に合ってる。ふくよかな顔に似合わず、指はほっそりしていて長い。左手の薬指に指輪。ネイルはなし。白く乾燥した短い爪。

 

「えぇっ」
わたしは軽く驚くフリをして、それから不満げに唇を尖らせて見せた。

「わたしが? 何それ。どういうことですか?」
「そ……そう」
先生の顔の強張りが、みるみるうちに溶けていく。それは氷が溶けるみたいだし、硬く閉じた蕾が咲くみたいですらあった。こんなにわかりやすい人が、よく教師をやっているなと思う。いや、このくらい素直な人じゃなきゃ、先生なんて目指さないのか。

 

「違うならいいの。ただ……心配してる子がいるみたいだから」
告げ口をしたのは多分ナツキだ。入学してすぐ仲良くなったナツキとは、2ヶ月前までいつも一緒だった。些細なことでケンカしてお互い意地を張り合ってるうちに、わたしが深川ミナミに声をかけられたのがきっかけで、決別は決定的になった。

きまぐれだけど公平で、残酷だけど魅力的なミナミは、うちのクラスの女王だ。ミナミに手を引かれるまま、わたしはいわゆる『一軍』の彼女のグループに入ることとなった。

 

ミナミにわたしに期待したのは、新鮮さと盛り上げ役だった。新参者の「いじられキャラ」が「何を言っても良いキャラ」になるまで、時間はほとんどかからなかった。体型・肌荒れ・成績と、あらゆる的に四六時中球が飛んでくる。ちなみに、ミナミがわたしの欠点を揶揄したことはない。周りが勝手に、ミナミを笑わせたくてやることだ。カナやミサキはわたしに狙いを定めるようで、視界の端でミナミを見ている。わたしは投げられた球を必死になって打ち返し、明るくオーバーなリアクションを見せる。すべては深川ミナミのためのショー。

 

子供の時からお調子者で、いじられて周りが笑うことで、嬉しい気持ちになることも多かった。ナツキだってよくからかってきたけど、あの子はわたしが気持ちよく打てる範囲に、ほどよい速さの球を投げるのが上手かった。今考えると、あれは信頼関係の上で成り立つゲームだったんだな。今、わたしがマウンドに立ってなかろうが、バットを持ってなかろうが、お構いなしに投げつけられる豪速球とはまったく別のモノだった。でもわたしには、それをいじめと認める勇気がない。

いじめられてると認めてしまえば、カナやミサキは友達ではなく加害者になる。『わたしの友達』が消えてしまうのだ。多少度が過ぎているとはいえ、軽く貶される程度。靴を隠されたり、殴られたり、お金を取られるわけじゃない。それならこのままヘラヘラやり過ごして、高校生活を『普通に』終えるのが正解じゃないか。

 

「うちのクラスに、いじめはないと思いますよ」
はっきりと口にしてやると、先生はあからさまに胸を撫で下ろしていた。本当に、わかりやすい人。

「良かった。私もまさかと思ったんだけど、一応ね」
そう、一応ね。「いじめがある」なんて証言を無視したんじゃ、何かあった時大変だもんね。……そんな意地悪な考えが浮かんで、「本当はいじめられてるんです」と今から泣いてやろうかな、と思う。……ねぇ先生、そしたら先生は何をしてくれるの? カナやミサキにどう『指導』する? 加害者がさっぱり改心し、わたしが「大袈裟でノリが悪い」とレッテルを貼られず、正しく美しい友情が再構築できる術があるなら披露してほしい。

 

先生がひとこと注意すれば、カナやミサキはわたしをいじるのをやめる。謝れと言われれば謝るだろう。ただ、ある日突然加害者の烙印を押される彼女らは、わたしのそばから迷わず離れる。元から好きで一緒にいたわけではない、『ノリが合わない』わたしとの付き合いが面倒になるのは当然だ。ミナミも止めない。笑えないわたしはお払い箱だ。これがいじめであったとしても、わたしにとってはいじめられるより嫌われる方が耐え難い。

 

わたしにとっての教室は寒くて、毛布がなければ耐えられない。毛布の内側に針がついてて素肌をチクチク刺したとしても、「こんな毛布はいらない」なんて捨てられない。痛みに耐えて、寒さを凌ぎ、卒業の春を待つだけだ。

 

「急にミナミたちと仲良くなったから、びっくりしてる人もいるかもですね」
わたしは笑って、「約束してるのでもういいですか?」と国語科準備室を出た。教室には誰もいなかった。スマホを取り出しLINEを開くと、グループトークに「先行ってるね」と連絡があった。そうだ、みんながわたしを待つはずがない。「今から行くね」と返そうとして、ミサキからメッセージが届く。

 

「🐽ちゃん早く〜!」
気の利いた、面白おかしい返信を、すぐに打たなくてはと思う。目の奥が熱くなったのは、何かの間違いだと思いたい。だってわたし達は友達で、これはいじめなんかじゃない。

 

「🐷🔥💨」
サラダしか入っていない胃が痛む。3つの絵文字で誤魔化して、わたしはみんなの待つ……ううん、わたしを待っていないみんなの集まるファミレスに急いだ。

 

おしまい

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