友情
「のどかちゃん、亡くなったんだって」久しぶりの母からの電話は、幼馴染の死亡を伝えるものだった。まだ肌寒い3月の夜、彼女の遺体は近所の海辺で発見された。遺書はなく、事故とも自殺とも判断がつかないのだという。 「それで、のどかちゃんのお母さんが…
高校時代を思い出す時、まず頭に浮かぶのは教室ではなく通学電車だ。通学の30分間で、数えきれないほど痴漢に遭った。ある時は大学生風の男に密着され、ある時は父親よりも年上と思われる数人の男に取り囲まれた。初めて下着に手を入れられた日、教室につい…
女友達が少ないと言うと、「きみは美人だから妬まれちゃうんだね」とか言う奴いるけどあれは何? 女に嫌われてるわたしでさえ「んなわけね〜だろ」と思う。わたしが美女なのは事実だが、友達があまりいないのは、自己中、我慢のできなさ、だらしなさ、不義理…
わたしたちの友情が壊れたのは数年前の忘年会で、場所は地元の居酒屋だった。これといった特色のない個人経営の飲み屋で、1階が調理場とカウンター、2階が座敷になっている。 わたしとハルノ、リオナとシホとアスカの5人は中学時代の同級生だ。どんなに忙し…
単調で光の見えない暮らしだった。そんなわたしにも、唯一楽しいと感じる時間があって、それは委員会活動中だった。なりゆきで新聞委員になったわたしは、学年新聞の記事を書くこととなった。さらに副委員長を押しつけられたため、締め切り後には委員長と一…
うちは普通ではない。最初にそれを感じたのは、小学1年生の頃だった。将来の夢は「れいばいし」だと答えたら、教室が変な空気になった。何かの漫画の影響だろうと先生は苦笑いしていたけれど、そんな漫画は読んでない。「れいばいし」は、大好きなパパの職業…
「びっくりした。まだみんな『女の子』してるんだね」 自分の口から出た言葉が、思ったよりも意地悪な響きを含んでいたので、当のわたしが驚いた。 この日は友人のマリアの結婚式だった。高校時代から華やかで目を引く存在だったマリアは、楽しみつくした20…
「結婚する」と言ったとたん、目の前のナオミが小さく息を呑むのがわかった。頭に浮かんだであろう「なんで」を飲み込み、彼女はサラリと笑顔をつくる。「おめでとう!」 ナオミとわたしの出会いは中学校だから、付き合いはもう20年になる。当時は特別親しい…
「あ、お疲れ」 「そっちこそ、プレゼンお疲れ様。何とかまとまって良かったじゃん」 「本当だよ。一時はどうなるかと思った」 「Twitter荒れてたもんね」 「本番直前にふたりもバックれたんだよ? 荒れるでしょ」 「まぁそれは……。でも前山さん、今日来てた…
前回の話↓ www.yoshirai.com 第三幕・窓の外 ハルキはスツールに腰掛けたまま、ぼんやりと天井に目をやった。懐かしむように一度目を閉じ、スピーカーからの『声』を待った。 ――大学に入学すると、一気に世界が開けた気がした。新たな出会いは刺激的だった。…
第一幕・王の生誕 暗い部屋。奥正面には簡易なスツールがあり、ひとりの男が腰掛けている。年齢は30歳前後で穏やかな表情。グレーのシャツにデニムというラフな装いだが、靴や時計は高そうだ。足元には小さなリュックが転がっている。 天井のスポットライト…
幼なじみって言ったって、好きで仲良くしていたわけじゃない。母のパート先の和菓子屋の娘が、わたしと同い年だった。それだけ。幼稚園児のわたしには、すでに友達がたくさんいたし、近所に従姉妹も住んでいた。遊び相手には困ってなかった。困っていたのは…
(前回の話)「姉の死により、私の人生も終わった」から始まるその文章は、山田さんの告発だった。 ……姉の命を奪った事故以降、山田さんは姉の代わりになるため生きてきた。家では姉の名で呼ばれ、姉の部屋と遺品を使い、骨を喰らって暮らしていた。8月の終…
中学生の頃、新聞委員だった。しかも委員長だった(じゃんけんに負けた)。活動内容は月イチの学年新聞づくり。新聞といっても、印刷してみんなに配るわけじゃない。生徒指導室の前の壁に掲示するのだ。各クラスの委員から記事を回収し、体裁を整えながら模…
こんにちは!セックスレスの人妻です。 4年前にビビっときて、交際半年で結婚しました。んで新婚5ヶ月でレスになりました。和牛水田似の夫は中学教師。授業に部活に事務作業、いつも遅くまでお疲れ様です。でも毎晩毎晩疲れてるって、疲れてない日はいつです…
「最低、本当に最低。今すぐ死んでほしい」 こんにちは。現場の幡野です。ここは大学の空き教室。寒いくらい冷房が効いています。今すぐリュックから上着を取り出し羽織りたいのは山々ですが、それも厳しい状況です。なぜなら教室にいるのはわたしとアキナち…
(こちらの話とリンクしています) 去年の誕生日、彼から花束をもらった。わたしの好きなダイヤモンドリリーがふんだんに使われた大きな花束。幸せな気持ちで花束に顔をうずめるわたしに向かって彼は言った。 「30歳。俺に捨てられたら、無職の家無し30女に…
あなたが指定したカフェはどの駅からも微妙に遠く、しかもその日は雨でした。約束時間の5分前。わたしは入り口の前でお気に入りの傘についた雫を払い、愛想の良い店員に待ち合わせだと伝えました。 通された席は窓際で、ひんやりとした空気に足先からスカー…
「私が見えるの?」 自分に霊感があると知ったのは、高校の入学式だった。自分が一番乗りのはずの教室に女の子がいた。手足が長くて色白で、横顔のラインが美しい。机の上に軽く腰掛け、窓の外をぼんやり眺めていた。 わたしが思わず見惚れていると、彼女が…
最近マユカの様子がおかしい? いつものことじゃないですか。はぁ、最近輪をかけて……? サナダさん、何かしたんですか。 ………………びっくりした。いや、こういう時ってだいたい「心当たりはないんだけど」って続くじゃん。不倫してたの? そんでバレたの? コワ…
はじめてSNSに載せられるタイプの彼氏ができてラッキー! 結婚しようって言われてハッピー! って思ってたら浮気が発覚。最初こそとぼけていた彼は、動かぬ証拠を突きつけられて平謝りしたが、こちらに許す気がないとわかると逆ギレに転じた。それからマウン…
晴橋ヒナコさん。 これは全世界へ公開された、あなたひとりへの手紙です。アイキャッチに使った黒猫の写真は、一見なんでもない画像だけれど、あなたにはいつどこで撮られた写真か一目でわかると信じています。名前を晒すことになってごめんなさい。名前の漢…
(※こちらの話とリンクしています) これまでの人生で、他人から言われていちばん腹が立ったのは、「空気の読めないフリをしないで」。相手は大学の友人・アヤだった。 --- わたしの育った平子家の家訓は、「いま言わないなら黙ってろ」である。 親は子供は3…
ふと本屋で見かけたので、カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」を買った。 10年ほど前に読んだ記憶があり、TBSのドラマも観ていたので、流れは把握していた。それでも読んで良かったので、こうして記事を書いている。 ここから先は作品の内容・結末に触…
高校入学初日から卒業までを、ニイナとハヅキと一緒に過ごした。ふたりとも大好きだけど、3人組は難しい。どうしてもふたりとひとりに感じる時があった。ニイナとハヅキ、それからわたし。 境界線はすっごく薄い膜みたいで、無視することも、見えないふりし…
(※こちらの話とリンクしています。) ユリノから「婚約した」と聞いた時、私たちは新大久保で韓国料理を食べていた。 「おめでとう!」と平子が声を上げ、改めてノンアルコールで乾杯した。数年に及んで元彼を引きずっていたユリノが、新しい彼氏とトントン…
え、どうしたのこれ。婚約祝い? うそ、ありがとう。開けていい? わぁ可愛いグラス! この作家好きなんだよね。あ、そっか。前に一緒に展示を見に行ったね。 大事にする。……でもわたし、婚約のことアヤに言ったっけ。 そう、平子のインスタで婚約パーティの…
「いじめられてるの?」なんて訊かれて「はい」って言える人間が、言えると思ってる人間が、わたしはまったく理解できない。 担任の徳田先生は、言えると思ってる側の人らしい。平静を装っているけれど瞬きが多く、机の上で組んだ手の動きが忙しない。日直を…
あ、待って。なにこの空気。 さっきからふたりで目配せして……絶対なにかたくらんでるでしょ。 あー、絶対それ言われると思った。今日はその話題はやめようよ。なぜって、うそ、知らないの? 28歳以上の恋バナは法律で禁止されたんだよ。テレビのニュース見て…
気づいたらNANAだった 初めてハマった少女漫画がNANAだった。作者はご近所物語、パラダイス キスなどを世に送り出した矢沢あい。2000年の読切から始まったNANAは、作者の体調不良によって2008年から休載中である。 おしゃれな絵柄と魅力的なキャラクターたち…