こんにちは!セックスレスの人妻です。
4年前にビビっときて、交際半年で結婚しました。んで新婚5ヶ月でレスになりました。和牛水田似の夫は中学教師。授業に部活に事務作業、いつも遅くまでお疲れ様です。でも毎晩毎晩疲れてるって、疲れてない日はいつですか? 織姫と彦星だって、もうちょっとセックスしてるんじゃ? それでも手を変え品を変え、がんばって誘ってみたけれど、「性欲やば(笑)」とまるでこっちがやりたいだけの性欲モンスターみたいに言われて心が折れました。合掌〜🙏
夫婦仲は悪くないです。会話もあるし記念日も祝う。朝まで一緒にゲームもします。穏やかな毎日にセックスが、セックスだけがない。それで「子供が生まれたら〜」とか平気で言うからびっくりしちゃう。種もまかずに芽が出るか? 子供の作り方知ってる? 医療と科学のチカラを借りるってこと? でも病院に行くのは「なんか不自然で嫌」とのこと。ちょっと本当にどういうこと????
ちなみに先日の夫のFANZAの検索ワードは「OL 美脚 ショートカット」です。本当にありがとうございました。
そんなこんなで2年が過ぎて、セックスの思い出は記憶の彼方。その薄い記憶もすべて妄想のような気さえしてきた。夢小説で読んだやつ? わたしって……もしかして処女……?
霞む現実によろめくわたしは、この現状を変えるため、行動を起こすことにしました。夫の職場に殴り込み、教育現場の構造改革。部活動の廃止。業務の徹底効率化。こうして夫は毎日19時に帰れるようになり、夫婦のセックスレスに終止符。1年後には双子を出産。めでたしめでたし……という妄想をしながら、マッチングアプリに登録し、普通にセフレを作りました。
セフレの彼は同い年の映像デザイナー。時間の自由のきくフリーランスです。薄い顔に眼鏡のヒゲ面、長髪、喫煙者だけど肌と手が綺麗。彼の住む中目黒は、わたしの家から25分。ちょうど良い距離感です。褒め上手で優しくて、事前に「俺は結婚しないし彼女もいらない」とはっきり言う、ある意味誠実な男です。わたしが結婚してると告げても「なるほどね」のひとことでした。そんな彼とのセックスが……良い!! 久しぶりなのを差し置いても、感謝の正拳突き100万回。帰りに募金箱に千円入れた。
……という話を女友達にしたら、「わたしもその人と寝てみたい」と言われました。は?
その友達・ミキとは小学校からの付き合いです。親友と言って良いでしょう。いわく、ミキと彼氏は4年続いているけど、ここ1年はレスだとか。理由はミキが「そんな気分にならない」から。は〜?? 肩を揺さぶってやりたい気持ちです。わたしがイラつき困惑する一方で、最近バッサリ髪を切り、ますます綺麗になったこの女は、コーヒーカップを両手で包んでまっすぐな目でこちらを見ています。少しも後ろめたさがなくてスゴい。
「その上手いセフレとしてみて、彼氏とセックスしたくないだけか、セックス自体が好きじゃないのか確かめたい」だってさ!! は〜〜???? 知らねぇ〜〜〜〜!!!!
「マジで知らねぇし、それ結論出たとして何?」と喉まで出たけど飲み込みました。ミキはわたしの夫を知っています。ここで断ったらもしかして……と思うと強気に出られませんでした。「上手いって言っても相性だし……」とか、「あんたの好きなタイプじゃないし……」とかいろいろ理由を述べてみたけれど、全部「大丈夫」だそうです。いや大丈夫じゃないのはこっちなんだが……? でもどうして大丈夫じゃないのか、合理的な説明ができません。わたしの他にも、彼に女がいるのは明らか。すでに他の女と彼をシェアしている状態で、ミキだけを拒む理由は……ちょっと……ええと……思いつかない。
わたしが煮え切らずにいると、ミキは少し首を傾げて言いました。
「あ、でもランちゃんがその彼を好きなら遠慮するよ」
………………こいつ………………。
わたしは頭がクラクラしました。ああそう、ミキはこういう女でしたね。普通はああだよね、常識的にはこうだよね、という規範みたいなものに頓着がなく、自分がどう思うかがすべて。そういうミキだから、わたしは既婚者のくせに「セフレとのセックス最高♡」なんて人によってはゲロ吐くような話ができたのです。彼女が夫に告げ口するなんて、一瞬でも考えたわたしがバカでした。
……友達のセフレと寝るのは抵抗ないミキだけど、それが「好きな男」なら、申し訳ないので結構です。と。ミキに他意はないのはわかっているけど、そう言われてしまったら、こちらはますます反対しにくい。「彼が好きだからやめて」と言えば、ミキがあっさり引き下がるのはわかっていました。でもそんなに素直に生きてたら、わたしはセフレを作っていません。
「やるなら1度だけ」
「連絡先はすぐ消して」
「間違っても好きにならないで」
わたしの出した条件を、ミキはふたつ返事で飲み込みました。せっかく出来たセフレだし、わたしが会えなくなるのは嫌。友達と彼を取り合うのも嫌だし、それでミキと気まずくなるのも嫌。……聞かれてもない理由を添えてみたけれど、それはミキより自分に言い聞かせていた感じがします。「好きなのは彼とのセックスで、彼自身ではありません」と。
ミキに促されるまま、わたしはLINEのアプリを開きました。「わたしの友達と寝ない?」。本当に非常識な提案です。送信しながら、彼が断ることを祈っていました。せめて1時間……ミキと別れるまで返事がなければ、タイミングの悪さを理由にうやむやにできるかもしれません。
その場で撮った無加工・半目のミキの写真を送ると、返信はすぐに来ました。「OK! 今日でもいいよ。18時以降にウチでヨロシク」。ホットペッパーより予約が簡単……。
ミキは「今日下着ヨレヨレだけど……いっか!」と言って軽やかに彼の家に向かいました。いや良かねぇのよ……。ひとりカフェに残されたわたしは、ラペルラの上下3万越えの下着をつけています。本当はミキと別れた後「近くまで来たから、これから合わない?」と気まぐれを装い彼に連絡するつもりでした。当日だから断られても傷付かず済むし、会えればラッキー。事前に約束してその日を指折り数えて待つような、重い女と思われたくありませんでした。そう思ってる時点で重いのだけど、それはもうどうしようもないことです。
わたしは空のカップを残した机に突っ伏し、大きなため息をつきました。それにしても、あいつ、マジで誰でもいいんだな……。洒落たメガネの奥、笑うと細くなる彼の目を思い出しながら唇を噛みます。……わたしだって、最初は誰でも良かったのにな。
最近、彼から以前ほどこまめに連絡がありません。それなのに、今日に限ってすぐ既読になって返事がきたのは、偶然だったと思いたい。夫と別れる気はないし、本気になられても迷惑なのに。……彼がどういう態度をとれば、わたしは満足だったんでしょうね。
衝動的にスマホを手に取り、ミキに電話をかけようとしました。「やっぱりやめて」とひとこと言えば、ミキは必ず引き返すでしょう。でも通話ボタンが押せませんでした。ブレーキをかけたのが理性か意地か、その他の名前のつく何かか、わたしにはわかりません。確かなのは、わたしに止める権利はないことです。もしも「なんで?」と聞かれたら、それに答えてしまったら……言葉にしてしまったら、今度こそ引き返せなくなる気がしました。……うん、やめよう。きっともう潮時。いや、最初から会うべきではなかったのです。
LINEを閉じて、わたしはホットペッパービューティのアプリを開きました。髪を切ろう。ミキみたいにバッサリと。いっそ夫好みのショートにするか。はは。乾いた笑いが口から出ました。
美容院を探していると、不意に「綺麗に伸ばしてるね」と褒めてくれた彼の声、優しく髪をとく指の感触が、頭に鮮明に蘇りました。瞼の奥が熱くなります。うん、でもだからこそ、わたしは髪を切らないといけない。当日予約できる美容院が死ぬほどあるから、東京は最高。
1時間後――彼とミキがセックスしているであろう時間、わたしは美容院の鏡の前にいました。
「今日はどうします?」
担当美容師は髪も服装も派手だけど、物腰が柔らかくって親しみやすい人でした。少し垂れた目と脱色した太い眉は、夫にも彼にも似ていません。どうします? いや、本当にどうしたらいいですかね?
数秒間の沈黙がありました。美容師が小首をかしげるのを見て、わたしはやっと口を開いたのでした。
「あの、……とりあえず毛先だけ整えてください」
おしまい
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これのミキちゃん側の話↓
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