ゆらゆらタユタ

わたしのブログ

全自動お茶汲みマシーンマミコと天罰

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悪いことは続くもので、めちゃくちゃ好きな男が本命彼女にすがりつく様を見せられた翌週、知らない人からLINEが来たので見てみたら、不倫相手の奥さんだった。「お話ししたいことがあります」だそうだ。そりゃそうでしょうねとマミコは思った。

土曜日の午後に会いたいと言われ、マミコは週末の予定をすべてキャンセルした。添付された店のurlを確認すると、新江古田にあるカフェだった。どうやら個室もあるようだ。

印鑑を持ってこいとの指示を受け、マミコは銀行印と一緒に保管している通帳を開いた。マミコのマンションは叔母の持ち物で、家賃を格安にしてもらっている。なのでマミコは収入のわりに貯金は多い。けれど、それは日々の小さな努力でコツコツ『貯めた』お金であって、楽して『貯まった』わけではない。不倫の慰謝料の相場は50万から。こんなことで何十万……場合によっては百万単位で貯金を失うのは痛手だが、今はすべてが投げやりな気持ちで、どうでもいいとさえ思っていた。

不倫、慰謝料、会社バレ、なんて単語とともに浮かぶのは、セリザワさんやその奥さんより、今回の件とは無関係の、好きな男とその彼女の顔だった。あれ以来、テツくんからの連絡はない。スガワラさんは意見を変えず、ちゃんと別れてくれただろうか。

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仕事も社内恋愛も無理です

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ミスの多い生涯を送ってきました。

「添付ファイルをご確認ください」と書いたメールをファイルを添付せず送り……なんてのは全然可愛い方で、取引先の偉い人の名前を間違え、発注数のケタをミスって途方に暮れ、コピー機を詰まらせ、共有ファイルを削除し、社員証をなくし、社用携帯は受け取った翌月バキバキにした。とにかく入社半年でやれるミスは全部やった。ブチ切れる上司! 鳴り止まぬクレーム! 始末書に次ぐ始末書! の、舐めてるとしか思えぬ誤字脱字!!! その度にフォローしてくれたのは、先輩の林さんでした。

 

林さんはすごくいい人で、後輩からの信頼も厚い。わたしの同期たちも「何かあれば林さん」だ。仕事が出来て、相談しやすく、柔軟な彼をみんな慕っていて、林さんの下に配属されたわたしは配属ガチャ大当たりです。

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「わたしを離さないで」―花壇で枯れてゆく花たち

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ふと本屋で見かけたので、カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」を買った。

10年ほど前に読んだ記憶があり、TBSのドラマも観ていたので、流れは把握していた。それでも読んで良かったので、こうして記事を書いている。


ここから先は作品の内容・結末に触れる。個人的には最後まであらすじを知っていても感動が薄れる作品ではないけれど、まっさらな状態で読めるならその方が良いとも思う。「提供者」「介護人」「ヘールシャムとその目的」、ひとつひとつを理解して、自分の中で物語の形をつくっていくのは、一度しかできないことだから。

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彼は顔だけは殴らない

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突然ミサキから呼び出されて、何かと思えば夫が暴力を振るうとか。ミサキの夫のヒサノリはわたしの地元の友達で、同じマンションで育った幼馴染だ。5年前、ミサキに彼を紹介したのがわたし。結婚式では「ふたりのキューピッドのアイさんです」と壇上に引っ張り出され、記念品まで受け取った。

「ヒサノリが」
暴力だなんて信じられない……と出かけた言葉を必死に飲み込む。わたしの知っているヒサノリは、幼い頃から兄弟喧嘩すらほとんどしない優しい子だった。けれど、わたしが恋人の前での態度をヒサノリに決して見せないように、ヒサノリにだってわたしの知らない顔があったとしてもおかしくはない……のか?

 

まだ蒸し暑さの残る9月。
カーディガンを羽織って現れたミサキが袖をまくった時、わたしの頭は真っ白になった。白い腕には無数のあざ。シャツとデニムに隠された体が無傷でないのは、容易に想像がついた。

「顔だけは殴らないんだよね」と笑うミサキの声は乾いて、目には力が宿っていない。


暴力は1年前からだという。最初は小突く程度だったのが、次第にエスカレートしたらしい。些細なことで妻を怒鳴りつけて突き飛ばし、うずくまる彼女の背中を執拗に蹴るという今のヒサノリと、病気になった老犬の介護を、最後まで献身的にこなしていた小学生のヒサノリのイメージが重ならない。それでもとにかく、暴力被害を訴えるミサキを、自宅に帰すわけにはいかなかった。ミサキが実家を頼れないのはわかっていたので、わたしは自分のマンションに彼女を連れ帰ることにした。

わたしのマンションは学芸大前。ちょっと頑張って借りてる1LDKは、ひとりでは余裕があるけどふたりだと手狭だ。けれど、わたしにはヒサノリを紹介した責任がある。ヒサノリに連絡すべきか迷ったわたしは、何度も文章を作っては消して、結局何も送らずスマホを置いた。電話をする勇気はなかった。

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3人でいても、ふたりとひとり

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高校入学初日から卒業までを、ニイナとハヅキと一緒に過ごした。ふたりとも大好きだけど、3人組は難しい。どうしてもふたりとひとりに感じる時があった。ニイナとハヅキ、それからわたし。

境界線はすっごく薄い膜みたいで、無視することも、見えないふりして突き破ることも簡単だった。けれど、膜は何度でも再生し、わたしたちを優しく分断した。誰かに悪気があったわけではない。膜が出来てしまう理由は、3人の中でわたしだけ帰る方向が違ったりとか、好きな芸能人の違いとか、そういうどうしようもないことだった。


それぞれ別の大学に入り、まったく違う職業に就いても、わたしたちの交流は続いた。わたしは書籍関連の企画職、ハヅキは製薬会社で営業。ニイナはアパレルで働いていたけれど、一昨年の結婚を機に辞めて、今は優雅な専業主婦だ。面食いのニイナが選んだだけあり、年下の夫のスミヒトさんはアイドルみたいな甘くて端正な顔立ちをしている。ニイナの実家は中規模の会社を経営しており、スミヒトさんが継ぐそうだ。自称「本当ならまともな職にはつけない経歴」のスミヒトさんは、ニイナに頭が上がらないとか。

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わたしという餃子の爆発

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今から不倫相手への憎悪を語りますが、「不倫女が何言ってんだ」みたいなところは一旦棚に上げさせてください。これはわたしのわたしによる、わたしのための文章です。

秋がきて わたしの彼氏はパパになる 妻との不仲はフィクションでした。

思わず地獄短歌です。

「妻とはセックスどころか会話もなく、離婚秒読み家庭内別居」と聞いていたのですが、この度なんと奥様がご懐妊とのこと! 誰の子? 神の子? 彼の子ですか? セックスもなしに不思議です。

 

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不幸になったら愛されて幸せ♡

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小学校に上がる頃には、母親に好かれていないと気付いていた。「好かれていない」というよりも、「嫌われていた」が近いかもしれない。母は常識があって責任感の強い人だから、兄ふたりとの露骨な差別や虐待はなかった。けれど、ふとした瞬間の表情や、言葉の節々から拒絶を感じた。臭いものには蓋をと言うが、蓋をしたって臭いは漏れ出る。残念ながら、わたしは鼻のいい子供だった。

 

母に愛されなかった子供のわたしは、常に母親の視線を気にして、機嫌をとるのに必死になりーー……なんてことは別になかった。父は末っ子長女のわたしを溺愛していたし、どちらがわたしと手を繋ぐかでケンカするような兄たちだった。だから、当時のわたしは母親との関係をわりかしドライに受け止めていた。母親は男の子が、父親は女の子が可愛い。きっとそれだけのことなのだと。

 

そうとも限らないと知ったのは、小学校高学年の頃だった。友達が口々に「パパなんか嫌い」「でもママは好き」と言い出したからだ。幼なじみのマリカは母親とふたりで買い物に行ってお揃いの小物を買って喜び、サナの恋愛相談の相手は母親で、バレンタインのチョコレートを一緒に作ったのだとか。マジ? そんな友達みたいな母娘ありなの?

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