(※こちらの話とリンクしています。)
ユリノから「婚約した」と聞いた時、私たちは新大久保で韓国料理を食べていた。
「おめでとう!」と平子が声を上げ、改めてノンアルコールで乾杯した。数年に及んで元彼を引きずっていたユリノが、新しい彼氏とトントン拍子に結婚にたどり着いたのは、私たちにとっても本当に嬉しいことだった。
「式は考えてないんだけど、ふたりを彼とその親友に紹介したいから、食事会をと思ってるんだ」
少し恥ずかしそうな表情から、彼女が私と平子を親友と思ってくれてるのがわかって、くすぐったいような気持ちになった。私たちは大学で出会い、卒業して5年以上が経つ今も親密な付き合いが続いているけど、「私たち、親友だよね?」なんて言葉で確認したことはなかった。
「ちなみに彼氏の親友って……独身?」
平子が茶化すように言うと、ユリノは「ひとりは独身だし、イケメン!」と親指を立て、ふたりはジョッキをコツンと合わせた。そんなやりとりを微笑ましく見守る私の脳裏には、大学時代を共に過ごしたもうひとりの女の子の顔が浮かんでいた。
「てかそのパーティー、アヤも呼」
「すみませーん! ウーロン茶追加で!」
無邪気な平子の太ももを軽くつねって、私は大声で店員さんに注文を伝えた。平子も流石に察したようで、それからアヤの名前は口にしなかった。ユリノが気付いてないとは思わないけれど、少なくとも、彼女に何かを答えさせる状況は防がなくてはならないと思った。
あえて「グループ」という言葉を使うなら、大学時代の私たちは4人グループだった。でもその時新大久保にいたのは3人で、私の家で先月ご飯を食べたのも、去年の箱根旅行も3人だった。
ユリノ、平子、私の3人と、疎遠になりつつあるアヤの間に、決定的な何か――例えば金銭トラブルとか、アヤが誰かの彼氏に手を出し大喧嘩とか――があったわけじゃない。卒業し、大学という場と一緒に、アヤと連絡をとる理由を失ってしまったという感じ。
アヤの性格が悪かったなんてこともない。大人しいけど優しくて、基本的にはしっかりした子だった。平子の単位取得のいくつかは、アヤのおかげと言って良いだろう。平子の図々しいお願いにも、毎回笑顔で応えていた。
そんなアヤの困ったところは、自分の意見をまったく言えないことだった。例えば、「今度の休みに富士急ハイランドに行きたい」と平子が言い出したとする。ユリノと私がそれに同意し、ワイワイと計画を立て始めたところで、アヤがうつむいて黙り込む。