ゆらゆらタユタ

わたしのブログ

今、あなたの最寄りにいます。

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ちやほやされるのが好きだった。それは事実です。


大学時代から付き合っている彼とはすでに家族のような関係で、安心感がハンパなく、別れることは考えられない。趣味と笑いのツボが同じで顔が好き。 手も繋がなくなって久しいけれど、寝息を立てる彼の長い睫毛、形の良い唇を見て「わたしたちの子どもはきっと可愛いね」と目を細めるグロテスクな夜を、わたしは愛していた。


それでも他の男と会う必要があるのかと聞かれれば、ない。でも、どうしてもちやほやされたかった。わたしを性の対象とし、こちらの心と体を覗こうとする男の視線のねばつきが、それを隠そうとして演じる余裕が、わたしを気持ちよくしてくれる。彼を裏切るつもりはないので、食事以上はしないがルール。独身の男相手にやると、思わせぶりだのなんだの言われて面倒なので(ぐうの音も出ない)、ここ数年は既婚者とばかり飲みに行っていた。周りに関係を疑われても、「え? あの人結婚してるんですよ、ないない」が言えるように。

 

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人形をクラスメイトとして扱うことを求められた話

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※人名はすべて仮名です。

 

成人式の日、久しぶりに地元の友人たちに会った。中学から私立に進み、地元とは少し距離ができていたわたしは、最初は同窓会への参加すら迷っていた。けれど会ってしまえば次々と記憶が蘇り、素直に再会を喜べた。

 

少し参加者の減った深夜2時、同じく中学受験組のソウタくんが言った「そういえば、ミミちゃんは今日来てないの?」は、最初冗談だと思った。けれど、その場の数名が「そういえば」「式にもいなかった」「引っ越したんだっけ?」なんて言い出して、わたしは混乱した。参加者を見渡すと、半分くらいはわたしと同じ顔をしていた。隣に座ったコハルも怪訝な顔をしていたので、わたしは彼女にそっと耳打ちした。「ねぇ、ミミちゃんってさぁ……」。

コハルは「え、そうだよね!?」とわたしの肩に手を置いた。微妙な沈黙がふたりの間を漂う。コハルはおずおずと、ミミちゃんの話題で盛り上がる場に口を挟んだ。

「ねぇ、ミミちゃんって……キタノサトミミちゃんのこと?」
「そうそう!女子で連絡とってる人いないの?」
ソウタくんは期待に目を輝かせるが、連絡をとっている子なんかいるわけがない。だってミミちゃんは人形なのだ。

 

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愛のため戦え!

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姉は常軌を逸した面食いだった。

好きになる男は全員飛び抜けて顔が良く、「ダサいけどよく見たら」という隠れイケメンではなくて、自分の美しさを自覚して飾り立てる男たちだった。20代の姉は、深夜でも呼びだされればタクシーに飛び乗り、しょっちゅう泣かされ、他の女とハチ合わせしてつかみ合いのケンカをし、その後なぜか空手道場に通い始めるような女だった。いわく、「彼の周りには若い女も、キレイな女もたくさんいる。その中でわたしが獲れるNo.1は、そう。強さ」とのことだった。

……“そう。”とは? 若さと美しさに強さで対抗しようする理屈は全然わからなかったし、彼には2ヶ月でフラれていたけど、空手は素質があったみたいで今では黒帯だ。

 

そんな姉は30歳の誕生日、他の女との死闘を制して勝ち取った男に「地元の子を妊娠させてしまったので結婚します」と別れを告げられ、青山の路上で絶叫した。人目もはばからず号泣しながらすがりつき、一張羅のワンピースで路上を転げ回ったと聞いて、わたしは爆笑した。男が逃げるように地下鉄改札に飛び込んだ後、メイクを涙でドロドロにした姉が向かったのは結婚相談所だった。入会、お見合い、仮交際。とんとん拍子にことは進んで、1年経たずに結婚した。

 

義理の兄は、どう見ても姉の好みではなかった。神経質そうなメガネの男は、むしろわたしのタイプである。背の高さ、体毛の薄さ、ちょっとオタクっぽい話し方。わたし的にはストライク。もちろん最初は姉の配偶者に手を出すつもりは毛頭なかった。けれど、わたしが東京配属になったこと、姉とよく会うようになり、義兄との接触が増えたこと、彼らの関係が冷え切っていたこと、わたしと義兄に共通の趣味があり、そのうえ職種も近かったこと――細かい偶然も、より集めれば『運命』になる。猛烈に惹かれ合いました。が、熱烈なロマンスの賞味期限は短くて、セックス3回で向こうが冷めた。しかも姉にバレた。

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【NANA】小松奈々(ハチ)という女

気づいたらNANAだった

初めてハマった少女漫画がNANAだった。作者はご近所物語、パラダイス キスなどを世に送り出した矢沢あい。2000年の読切から始まったNANAは、作者の体調不良によって2008年から休載中である。


おしゃれな絵柄と魅力的なキャラクターたちに、中学生のわたしは夢中になった。とりわけ美貌と才能を併せ持つナナのインパクトは強烈で、新刊が出るたびに本屋に急いだ。


東京行きの新幹線で出会ったナナと奈々(通称ハチ)。同い年のふたりは、偶然の再会によりルームシェアすることになる。

奈々は美大に進学した彼氏を追いかけて、ナナはミュージシャンとして成功するため東京へ。正反対に見えたふたりだが、意外にも友情を深めていく。 

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左:小松奈々(通称ハチ)/右:大崎ナナ
NANA - 矢沢あい(3)(集英社/2001年/P156)より

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すごく“大丈夫”な永遠の別れ

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「葬式なんて残された人たちのためのお祭りじゃん、っていつも白けた気持ちでいたけど、あんなの可愛いもんだったよね」

清潔な病室でニナはため息をついた。どんなに医療が発展しても、人間は死ぬ時は死ぬ。若くても、才能があっても、どんなに愛されていようとも。


あと数ヶ月でニナの人生が終わる。けど人格はデータに残る。生前の脳の情報をコンピューターに転送するマインド・アップロードは、今や一般的な技術となっていた。

電子端末からコールすれば、生きている人はいつでもニナと会話ができる。体感的にはテレビ電話と変わらない。愛媛のニナの母親と東京に住む夫のマサノリさん、各々と同時に話すことさえ可能になるから、むしろ今より繋がりやすくなるとも言える。


あくまで死者との対話はシュミレーションで、機械が死者の人格を再現しているにすぎない。けれど、大切な人の容姿や記憶を引き継いで、泣いたり笑ったりする彼らをただのデータと割り切ることは、わたしたちにはまだ難しかった。一部の人は頑なに『死』という言葉を避けて『引越し』と呼んだ。壊れやすい肉体を捨て、データの世界への引越すだけ、というのが彼らの主張だ。

 

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暗黒のハーレム漫画「少年のアビス」を読もう

ワールドエンド・ボーイ・ミーツ・ガール「少年のアビス」を読んでいます。

昨年末から新刊が出るたびにtwitterでワーワー言ってるので、フォローしてくれている方は「またその話か」と思うでしょうが、その話です。

※以下、最新刊までのネタバレを含みます。

何もない町、変わるはずもない日々の中で、高校生の黒瀬令児は、“ただ”生きていた。家族、将来の夢、幼馴染。そのどれもが彼をこの町に縛り付けている。このまま“ただ”生きていく、そう思っていた。彼女に出会うまでは――。 生きることに希望はあるのか。この先に光はあるのか。“今”を映し出すワールドエンド・ボーイミーツガール、開幕――!!

[第1話] 少年のアビス - 峰浪りょう | となりのヤングジャンプ

家庭と街、二重に閉じ込められた主人公

「オレ、この町を出れないんですよ」

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少年のアビス - 峰浪りょう(1)(集英社/2020年/P10)より 

主人公の令児は高校生。引きこもりの兄、認知症を患う祖母、唯一の稼ぎ手の母と暮らしています。母親は看護助手で父親は不在。成績は優秀ですが、決して裕福ではない家計を助けるために高校卒業後は就職を希望しています。

 

経済的な事情で祖母を施設に入れられず、母親と令児が自宅で介護をしています。祖母の排泄の失敗を処理し、機嫌を損ねて暴れる兄のために彼の好物を買いに行く。疲れた顔の母親が言う、「あたし、くんがいなかったら死んでたわ」。これが令児の日常でした。

 

そんな中で出会った憧れのアイドル・青江ナギ。彼女に心中に誘われた令児は、とある小説の舞台となった情死ヶ淵に向かいます。が、決行寸前で担任である芝田先生に見つかってしまい、心中は未遂で終わりました。

 

……出会って間もない高校生とセックスし、心中に誘う青江ナギよ……。が、「いったん彼女のことは置いといて」となるくらい、令児の周りの地元勢がヤバいんですね。

 

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全自動お茶汲みマシーンマミコと女友達

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マミコちゃんって、女友達少なそうだよね。

金曜の夜、小洒落たフレンチレストラン。マッチングアプリで出会って新しく彼氏(同時進行4人目)となったハルキの言葉に、マミコは少し首を傾げて微笑む。どうして? 

ハルキは上機嫌にワインを飲み干し、グラスをテーブルに置いてから言った。だって可愛いから妬まれそうだし、意外とサバサバしてるから、男といる方が楽なタイプじゃない?

こんな風に言われるのは初めてではない。なぜか一部の男性は、女友達が少なそう、女の子に嫌われてそう、を女への褒め言葉として使う。

――結局女が嫌いなんだよ。感情的なバカだと思ってるのに、君だけは違う。だから好き。そうやって目の前の女を“俺のお眼鏡にかなう商品”にして、同時に“お目の高い俺”にニヤついてるの。……そう吐き捨てたのは、大学時代の友人だったか。

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