ゆらゆらタユタ

わたしのブログ

不幸になったら愛されて幸せ♡

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小学校に上がる頃には、母親に好かれていないと気付いていた。「好かれていない」というよりも、「嫌われていた」が近いかもしれない。母は常識があって責任感の強い人だから、兄ふたりとの露骨な差別や虐待はなかった。けれど、ふとした瞬間の表情や、言葉の節々から拒絶を感じた。臭いものには蓋をと言うが、蓋をしたって臭いは漏れ出る。残念ながら、わたしは鼻のいい子供だった。

 

母に愛されなかった子供のわたしは、常に母親の視線を気にして、機嫌をとるのに必死になりーー……なんてことは別になかった。父は末っ子長女のわたしを溺愛していたし、どちらがわたしと手を繋ぐかでケンカするような兄たちだった。だから、当時のわたしは母親との関係をわりかしドライに受け止めていた。母親は男の子が、父親は女の子が可愛い。きっとそれだけのことなのだと。

 

そうとも限らないと知ったのは、小学校高学年の頃だった。友達が口々に「パパなんか嫌い」「でもママは好き」と言い出したからだ。幼なじみのマリカは母親とふたりで買い物に行ってお揃いの小物を買って喜び、サナの恋愛相談の相手は母親で、バレンタインのチョコレートを一緒に作ったのだとか。マジ? そんな友達みたいな母娘ありなの?

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アヤちゃんと3人のトモダチ#しーちゃん

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(※こちらの話とリンクしています。)

ユリノから「婚約した」と聞いた時、私たちは新大久保で韓国料理を食べていた。

 

「おめでとう!」と平子が声を上げ、改めてノンアルコールで乾杯した。数年に及んで元彼を引きずっていたユリノが、新しい彼氏とトントン拍子に結婚にたどり着いたのは、私たちにとっても本当に嬉しいことだった。

 

「式は考えてないんだけど、ふたりを彼とその親友に紹介したいから、食事会をと思ってるんだ」
少し恥ずかしそうな表情から、彼女が私と平子を親友と思ってくれてるのがわかって、くすぐったいような気持ちになった。私たちは大学で出会い、卒業して5年以上が経つ今も親密な付き合いが続いているけど、「私たち、親友だよね?」なんて言葉で確認したことはなかった。

 

「ちなみに彼氏の親友って……独身?」
平子が茶化すように言うと、ユリノは「ひとりは独身だし、イケメン!」と親指を立て、ふたりはジョッキをコツンと合わせた。そんなやりとりを微笑ましく見守る私の脳裏には、大学時代を共に過ごしたもうひとりの女の子の顔が浮かんでいた。

 

「てかそのパーティー、アヤも呼」
「すみませーん! ウーロン茶追加で!」
無邪気な平子の太ももを軽くつねって、私は大声で店員さんに注文を伝えた。平子も流石に察したようで、それからアヤの名前は口にしなかった。ユリノが気付いてないとは思わないけれど、少なくとも、彼女に何かを答えさせる状況は防がなくてはならないと思った。

 

あえて「グループ」という言葉を使うなら、大学時代の私たちは4人グループだった。でもその時新大久保にいたのは3人で、私の家で先月ご飯を食べたのも、去年の箱根旅行も3人だった。

 

ユリノ、平子、私の3人と、疎遠になりつつあるアヤの間に、決定的な何か――例えば金銭トラブルとか、アヤが誰かの彼氏に手を出し大喧嘩とか――があったわけじゃない。卒業し、大学という場と一緒に、アヤと連絡をとる理由を失ってしまったという感じ。

アヤの性格が悪かったなんてこともない。大人しいけど優しくて、基本的にはしっかりした子だった。平子の単位取得のいくつかは、アヤのおかげと言って良いだろう。平子の図々しいお願いにも、毎回笑顔で応えていた。

 

そんなアヤの困ったところは、自分の意見をまったく言えないことだった。例えば、「今度の休みに富士急ハイランドに行きたい」と平子が言い出したとする。ユリノと私がそれに同意し、ワイワイと計画を立て始めたところで、アヤがうつむいて黙り込む。

 

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悲劇ならわたしの視界の外で

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え、どうしたのこれ。婚約祝い? うそ、ありがとう。開けていい?

わぁ可愛いグラス! この作家好きなんだよね。あ、そっか。前に一緒に展示を見に行ったね。 大事にする。……でもわたし、婚約のことアヤに言ったっけ。

そう、平子のインスタで婚約パーティの写真を見たんだ。……ごめんね? ほら、このご時世だから、あまりたくさんの人は呼べなくて。籍を入れたらインスタで報告しようと思ってたんだ。パーティの写真もSNSに上げないでって言ったんだけど、平子もだいぶ酔ってたからなぁ……。

 

式の予定はない。まぁ落ち着いたら考えるかなぁ。……うん。そうね、もしもやるならぜひ来てね。でも今日も素敵なグラスをもらっちゃったし、じゅうぶんだよ。ありがとね。

 

……不満そうだね。昔から、何かあるとそういう顔で黙り込むよね。それで周りから「どうしたの?」って聞かれるのを待つ。やっぱりそのクセ直ってないんだ。いいよ、聞いてあげる。どうしたの?

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わたしたちは友達なので

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「いじめられてるの?」なんて訊かれて「はい」って言える人間が、言えると思ってる人間が、わたしはまったく理解できない。

 

担任の徳田先生は、言えると思ってる側の人らしい。平静を装っているけれど瞬きが多く、机の上で組んだ手の動きが忙しない。日直を口実に呼ばれた国語科準備室は、先生の人柄を表すようにほどよく整理されていた。でもよく見ると本棚に埃が積もっているし、隅の段ボール箱は何年も開封されてないみたいだった。

 

先生の顔をじっと見つめる。色白の丸顔。不自然なくらいに黒い髪はきっと白髪染め。眉の描き方がやや古いけど、口紅の色は肌に合ってる。ふくよかな顔に似合わず、指はほっそりしていて長い。左手の薬指に指輪。ネイルはなし。白く乾燥した短い爪。

 

「えぇっ」
わたしは軽く驚くフリをして、それから不満げに唇を尖らせて見せた。

「わたしが? 何それ。どういうことですか?」
「そ……そう」
先生の顔の強張りが、みるみるうちに溶けていく。それは氷が溶けるみたいだし、硬く閉じた蕾が咲くみたいですらあった。こんなにわかりやすい人が、よく教師をやっているなと思う。いや、このくらい素直な人じゃなきゃ、先生なんて目指さないのか。

 

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死んだので、デリバリー怨霊デビューします。

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キキーッ! ドーン! ぁたしゎ死んだ。

それは散歩中の事故だった。週末に締め切りを2本抱えて頭も原稿も真っ白なわたしは、「アイディアが浮かばないのは部屋で引きこもってるからでは?」と思い立って部屋を出た。コンビニに寄り、ストロングゼロに手が伸びたけど、結局お茶と焼き鳥を買った。アルコールを自重したのは家に帰ったら漫画を描くつもりだったからだけど、どうせ死ぬなら何でも良かったな。

 

イヤホンを耳につっこんで、radikoで毎週聴いてるお笑い芸人番組を選んだ。ふたりの楽しそうな会話を聴いていると、自然に口元が緩んでくる。髪ボサボサで顔色が悪く、中学のジャージにサンダル履きで、コンビニの袋をぶら下げて深夜にニヤニヤしながら歩いてる女、ヤバいな……そんなことを考えてたら、信号が変わったのに気づかなかった。響くクラクション。迫るヘッドライト。あ、轢かれる――と思った時には体は空高く舞い上がり、ぁたしゎ死んだってヮケ。

 

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ガラスのクツも金次第

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昔々、あるところにシンデレラという美しい娘がおりました。父親の再婚相手とその娘たちはマジでとんでもない性悪で、父親の死によってそれは加速しました。姉たちが散財を極める中、シンデレラは無料家政婦としてこきつかわれ、毎日のように因縁をつけられ、ネチネチといじめられていました。ただ姉たちは想像もしていませんでしたが、シンデレラは義母と義姉のクソエピソードをTwitterでバズらせ数万人のフォロワーを獲得、今では有料スペースとnoteのマガジンで、毎月それなりの収入を得ているのでした。

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わたしは彼のプリンセス

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あ、待って。なにこの空気。

さっきからふたりで目配せして……絶対なにかたくらんでるでしょ。


あー、絶対それ言われると思った。今日はその話題はやめようよ。なぜって、うそ、知らないの? 28歳以上の恋バナは法律で禁止されたんだよ。テレビのニュース見てないの? だからね、もっとほら、政治とか宗教とか野球の話をしよう。彩乃の支持する政党は? 愛ちゃんの実家の宗教は? ふたりの好きな球団は?


ふたりが心配してくれてるのはわかるよ。でも別に大丈夫だから。たしかに彼と最初に会ったのは彩乃に呼ばれたBBQだった。けど連絡先を交換したのも、付き合ったのも、今一緒に住んでるのも、全部わたしたちが決めたことだよ。責任なんて感じないでよ。

 

……はいはい、わかった。こういう時、愛ちゃん絶対引かないもんね。お説教聞くよ。でもその前に、わたしからもひとこと言わせてくれる?


うっっっっっっっっっっっっっっっっっせ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

バーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカ。

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