
あの、たしかにね? 過去にあなたに告白された時、社内恋愛NGを理由に断りましたよ? ちょうど1年前ですね? 同期を集めたBBQの帰り、今思えばやや不自然な流れで2人きりになった帰り道。ガチガチに緊張したあなたが、震える声で言った「好きです、付き合ってください」。直球ストレートなフレーズに脳天痺れた。※デッドボールです。
即座に、なんなら「付き合ってください」の「さ」に被せる速さでせり上がってきた「ごめんなさい」をギリで飲み込み、少し考えさせてと言いながら、わたしは断る理由を考えていた。翌週、社内恋愛NGと多忙を理由に断った。あなたはごねることなく素直に引いてホッとした。
そして季節は巡って4月。わたしが1番好きな季節に、あなたの退職の知らせが届いた。あなたの送別会も兼ね、今年のGWも同期で集まってBBQをした。それが今日。そろそろお開きかというところで、またそわそわとやや不自然に、あなたとわたしを2人きりにさせようとする同期たち……え? デジャヴ?? 嫌な予感。なぜか車に乗せてもらえず、駅まで2人で帰らされるあなたとわたし。手に持った荷物が軽いのに重い。わたしは約15分の道のりを、頼む〜見逃してくれ〜と念じつつ歩いたけれど意味はなく、意を決したらしいあなたがややキリッとした顔で言う。「好きです。付き合ってください」。
再放送? と思ったのも束の間、間髪入れずに退職の理由のひとつがわたしを諦めきれないからだとか抜かしたあなたは、さぁこれで障害はなくなったとばかりにキラキラした目をわたしに向けて、わたしは内心ボエ〜と叫んで空を見上げた。あの時、言っておくべきだったのだ。本当に、まったく、タイプじゃないので絶対に交際できませんと。わたくしガチガチの面食いですのでイケメン以外は視界に入らないのですと。社内恋愛に抵抗があるのは嘘ではないけど、そんなのは仮に先輩に中島健人♡同期に佐野勇斗♡がいれば秒で吹っ飛ぶくらいのポリシーでして、多忙っつっても今さらネトフリで愛の不時着を一気見するくらいの暇はあるわけで、つまり嘘……やっぱり嘘にはなるか……優しい嘘だったわけだ。
同期たちも悪い。どうせあなたから相談を受け、わたしのいない所で盛り上がり、応援するとかなんとか言ってこの場をセッティングしたのだ。いや相談さえ受けていないのかも。あなたが辞めると聞いて、「心残りがあるんじゃないのォ〜?」などと焚き付けた可能性さえある。今まで恋人のいなかったあなたに、服から靴から会話から、上から目線でアドバイスしたのかもしれない。学生ノリか? ボケどもが。でもわかる。他人の恋愛って面白いよな。大して多くない恋愛経験を抱き締めて、どんな変態であれ1人に受け入れられればOKである恋愛とかいう特殊な営みの成功体験を持ち寄って、上から目線であーだこーだと言うのって、何にも代え難い快楽だよな? そういうキモいムーブを現実世界の他人にぶつけないために、恋愛リアリティショーってあるんだろうな。一生古今東西の恋愛リアリティショーの考察(笑)noteでも書いてろよ。
で、今回は何? 当たって砕けろ? 当たられる身にもなってくんない? でもそんなこと言ったら、「なんでそんなこと言うの? あいついいやつじゃん」と怪訝な顔してみせるんでしょ。なんでいいやつだったら無罪なんだよ。
たしかにあなたはいいやつです。他人の仕事は手伝うし、明るくてカラッとしていて悪口は言わない。見返りを求めない、根に持たない。道端で困っている人がいたら声をかけ、助けを求められたらサッと手を差し伸べる。本当にすごいことだと思う。でも、それって、あなたが体格のいい男性だから出来ることでは? って思うことがある。わたしは学生の頃、駅で視覚障がい者を騙る男に介助を頼まれて、トイレまで案内したら個室に連れ込まれそうになったよ。目が見えないのは嘘だった。バイトをしてた時、ちょっと浮いてた同僚に優しくしてたら告白されて、断ったら「じゃあなぜ気を持たせることをした?」「ビッチ!」と激怒された。彼が机を叩いたダンッという音。その拳が、次の瞬間にも自分に向くかもしれないという恐怖。……だからわたしは、あなたほど無邪気に優しさを振りまけない。何とかして被害者のアラを探そうとする社会で身を守るために、優しさを差し出す人を慎重に選ぶ必要がある。その不均衡の中で、ピュアに「いいやつ」でいられるあなたが羨ましくて、時々少し腹ただしい。
あなたはいいやつで、寛容で、強い人ゆえの鈍感さがある。他人にされて嫌なことはしない。だけどあなたの「されて嫌なこと」はとても少ない。ほとんどのことは「気にしない」「別にいい」「寝たら忘れる」。そこはあなたの良いところだけど、自分の気にしないことは、他人も気にしないことになってませんか? あなたにとってどうでもいいことが、致命傷になる人がいる可能性を考えていない。
きょとん顔のあなたが言う、「俺、なんかやっちゃいました?」。あなたの善良さを知る周りの人の「気にするな」「相手が繊細過ぎる」「悪気はなかったんだよな?」を真に受けたあなたは、他人の拒絶も「寝たら忘れ」て同じことを繰り返す。そういうところが本当に無理、無理っていうか、別のルールで生きてる人だなと感じる。
そんなあなたからの二度目の告白。……こういう時、一番角の立たない断り文句は「彼氏がいるからすみません」だ。あなたの魅力が足りないんじゃなく、席が埋まっているのですという無敵のフレーズ。どうして彼氏を作っておかなかったんだろう……奇跡みたいなイケメンしか好きになれないからか……。まあいいけど、あなたみたいな人を好きになる女は趣味が良く人格者みたいな印象になって、シンプルにイケメンが好きな女は軽薄で頭が悪いって思われる風潮、マジで納得いかないな。ていうか、あなただってわたしのこと大して知らないじゃん。同期とはいえ、たまにみんなで飲むくらいだよね? それでどうしてわたしを選んだ? 自分で言うのもどうかと思うけど、そこそこ可愛いからじゃないの。いいやつなあなたの長期にわたる片思い? に、同期たちは「純愛!!」なんて盛り上がったのかな。は〜ダルすぎね〜か? わたしが辞めたいくらいです。
ここまで3秒で考えて、わたしは「ごめん、友達にしか思えない」と言って頭を下げた。あなたがいいやつで、同期が協力しているのがわかるゆえに、無駄な罪悪感を抱くと同時に腹の底から熱い怒りがこみあげた。なんでこんな思いをしなければならない? でもこんなお気持ちを周りに話せば、わがままで最低な女に見えるんだよな。一刻も早く自宅に戻って、ChatGPTに愚痴りながら推しの出演番組が見たい。バーカ。同期全員から1万円ずつ徴収して今すぐ北海道でも行きたい。
おしまい
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別に関連ないんだけど、久しぶりに読んだら面白かったので↓