あ、と言われてげ、と思った。
ここはアウトレットモール内のカフェ。ひとりで休憩していたマミコの隣の席にやってきた夫婦。
声を出したのは夫の方で、今それを悔いているであろう彼は、マミコの会社の営業部長・セリザワさんだった。
仕方なくマミコは立ち上がり、明るい声を意識して言う。セリザワさんじゃないですか。今日はご夫婦でデートですか?
そして奥さんの方に向き直り、会釈。はじめまして、ノガミです。いつもセリザワさんにはお世話になってます。
ちなみにマミコとセリザワさんはここ数年、定期的にセックスをする仲だが、もちろんそのことは口にしなかった。
セリザワさんの奥さんは色の白い、優しそうな女性だった。長い黒髪をひとつに束ね、ゆったりとしたワンピースと、同系色のカーディガンを着ている。左手に銀の結婚指輪。斜めがけのコーチのバッグ……に、ついているマタニティーマーク。
マミコの視線に気がついて、奥さんはお腹に手をあてて微笑む。この歳でちょっと恥ずかしいけど、3人目なの。
わぁ、おめでとうございます!
日ごろ全自動お茶汲みマシーンとして生きている甲斐あって、マミコはスムーズに祝福の言葉を返すことができた。
(ちなみにセリザワさんからは、妻とは長い間不仲でセックスレスだと聞いていたのだが、その設定はどこにいったのだろう? セックス無しで受胎したのか? 奇跡を見たなとマミコは思った。)
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