ゆらゆらタユタ

わたしのブログ

「こんなファッションは痛い」特集に慰められていたころの話

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今朝タイムラインを眺めていたら、この記事が炎上していた。

otonasalone.jp

上品さや清潔感とは対極の位置にあるロックTシャツは、10代〜せいぜい20代前半までしか許されないアイテムです。精神的に大人になり切れていないのかな、常識がなくて変わった人なのかな、と思われたくなければ、部屋着やパジャマにするのもやめて、こっそり思い出とともにしまうか、断捨離リストへ入れてください。

 「許されないアイテム」「大人になり切れていない」「常識がなくて変わった人」。

強い言葉が並んでいて、読む人が不愉快になるのも無理はない。けれど、わたしはこういう記事を書く人と、こういった記事を求める人の気持ちがわかる。まとまらないかもしれないが、そのことについて文章にしてみたいと思う。

 

「若いうちしか着れないよ」

 子供の頃、わたしはピンクやひらひらのついた洋服が着られない子供だった。親が買ってくれなかったのではなく、わたし自身がそれを拒否した。無理強いはされなかったが、「せっかく女の子を産んだのに」と母親は残念そうだった。

 

 当時、地元でロリータ風の女性を見かけることがあった。フリルのついたスカートのふんわりとしたシルエットや、頭にのせた大きなリボンを今でもはっきり覚えている。年齢は30代後半か、40代くらいだったと思う。近所ではちょっとした有名人だった。

 

「若い頃に可愛い格好しておかないと、年をとってからああなっちゃうかもよ」

その人とすれ違った後、わたしにだけ聞こえる声で、母がそう言った。たぶん冗談だったんだと思う。でも、「ああなっちゃう」――年齢にそぐわない装いは、とても恥ずかしいことだという考えは、頭に植え付けられて残った。

 

 

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全自動お茶汲みマシーンマミコと伝統(笑)

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マミコの会社に新しく事務員が入った。新入社員のスミちゃんはマミコよりひとつ年下である。

 

マミコの会社には昭和の残り汁につけたボロ雑巾みたいなクソルーティンがあり、1番年下の事務員が毎日こなすことを義務付け……いや、『期待』されていた。マミコの次に入った後輩は震えながらクソルーティンを拒否したため、入社以来、マミコがその役割を押し付けられていたのだが、ついにバトンを渡せる日が来たようだ。

 

スミちゃんが入社して1週間。マミコはクソルーティンの存在を伝えた。スミちゃんはげぇ、という顔をしたが、次の日1時間前に出社してマミコとクソルーティンをこなした。内容は茶葉やコーヒーの補充やゴミ捨て、簡単な掃除やお茶出しなどなので、難しいことは何もない。じゃあ明日からよろしくね、とマミコは当たり前みたいな笑顔をつくった。若い女子社員だけが毎朝1時間も無償の奉仕をさせられていることに一切の疑問を持たない様子で、あっさりと。お茶汲みマシーンはタスクに疑問を抱いたりしない。

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ねとられ女と愛の盗難

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こちらから読むとわかりやすいです↓

www.yoshirai.com

 

ねとられ女と"愛の盗難"

 

お疲れ様。ごめん、待った?

 

呼び出した理由、わかるよね。そう。あなたが私の彼氏を寝取った件です。別に謝ってほしいんじゃないんだけど……で、どっちから? ……そう、絵里からなんだ。

 

そりゃショックだよ。絵里のこと、信頼して彼を紹介したんだし。ねぇ、私のこと嫌いだったの? 今となってはどうでもいいけど。……呼び出しといて悪いけど、なんかもういいや。帰るね。

 

言い訳……。わかった。聞かせて。許せるかどうかはわからないけど。

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マジでフラれる5秒前

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「今日会える?」ってLINEが来たから嬉しくて、でもバレないように「じゃあ家にくる?」なんてそっけないテキストを送ったのに、返ってきたのが「いや外で会おう。話したいことがある」だったからもういっそ死んでしまいたい。これ完全に切られるやつだよね? クッソ。

約束の30分前にファミレスについた。清水くんはタバコ嫌いだけど、迷わず喫煙席を選んだ。水が来る前にタバコに火をつける。

 

清水くんは5つ年下のセフレ。バイト先で出会い、何かのきっかけでホテルに行った。彼はその時大学生で、童貞だった。

 

あれから4年……いや5年。彼が童貞を捨て、就職を決め、卒業、入社、昇進と駒を進めていったこの時間、私は何ひとつ変われなかった。最初から非処女のフリーターで、今も非処女のフリーター。



付き合う話がなかったこともないけれど、断ったのは私の方だ。あの頃は本当に、遊びのつもりだったのだ。

 ……もう一度、付き合おうと言ってくれたら。自分から動く勇気もなく、数年間も薄く期待し続けた結果がこれです。ため息をついてタバコを灰皿に押し付けた。

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プロポーズ後の置き手紙

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コウちゃんへ

 

昨日はプロポーズありがとう。一晩考えたんだけど、やっぱり結婚できません。

本当は顔を見て言うべきだけど、こんな手紙を残して出ていくことを許してください。この家にある私の荷物は全部処分して構いません。

これから理由を書きますが、読まずに捨ててくれてもいいです。

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2017年 書いたもの

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2017年が終わります。

今年のはじめ、「月に2回以上ブログを更新しよう」と決めました。挫折したのは翌月です。

夏からは、ありがたいことにAMさんで連載が始まったので、継続的に文章が書けました。ブログの記事が17本(この記事を入れれば18本)、AMでの連載が11本、企画への寄稿が1本。合計29本のうちの10本をまとめました。反応が多かったものではなく、単に自分で気に入ってる順です。年末年始にお時間あれば、読んでもらえると嬉しいです。

 

1【創作】死者とセックス

www.yoshirai.com

「紗江はね、別れた彼氏は全員死んだと思ってるの。だから連絡なんてあるはずないし、あったとしたら心霊現象

-『生きてる元カレのお葬式』からはじまる女の子同士の友情の話。

 

2 【コラム】普通の人生には結婚がマストだったのに…彼氏は別の女と婚約した

am-our.com

「『普通の人生』に結婚はマストアイテムで、彼が与えてくれると信じていたのだ。」

-何年も前の話だけど、書いてからほんとに過去になった感じがする ありがとうトラウマは原稿料になった

 

3 【コラム】彼とわたしの泥仕合

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「正論で責め立て、感情的に罵倒し、それでも彼を呼び出すわたしが何を望んでいたかというと、呆れることに復縁だった。」
-「他の子と結婚するから別れて」からはじまる、元彼氏との泥仕合

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生活のかかった恋だった

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しょうちゃ〜〜〜〜ん。もう無理〜〜〜〜。歩けない〜〜〜〜。

玄関から聞こえる泣き言に、僕は舌打ちして身体を起こした。午前5時半。非常識な姉の朝帰りである。

 

姉が玄関で泣くのが趣味みたいな人だ。

靴も脱がずに、コートも着たまま倒れこんでいる。姉がドラマの主人公で、僕が面倒見のよい弟なら、嫌な顔せず靴を脱がして部屋に運んだりするのかもしれない。でも現実は、姉はちょっと肌荒れしたアラサーで、僕はクマのひどい浪人生である。わざわざ玄関まで来たのは戸締まりを確かめるためだ。案の定、鍵はかかっていなかったので、姉を跨いで施錠する。

 

自分の部屋に戻ろうとすると、姉がスウェットの裾を掴んだ。「しょうちゃん、もう無理。ほんと無理」。もう無理なのはさっきも聞いた。風呂に入って寝ろと告げると、ココアを飲まないと無理だと言う。自分で作れと突き放すと、無理しょうちゃんやってとほざく。何も無理じゃねぇだろと思うが、ここは姉の家であり、僕は居候中の身だ。仕方なく僕は台所に向かい、姉はドロドロに溶けたみたいな「ありがと」を言って、ようやく立ち上がったのだった。

 

僕がミルクを温める間も、姉はグスグス泣いていた。理由はわかっている。失恋だ。

とはいえ彼氏と別れたのはもう半年も前の話で、今日だってどうせ他の男と寝てきたのだ。自分の足で帰ってくるのに、帰宅した途端立てなくなるらしい。

 

「なんでこんなこと繰り返すわけ?」

「だってヒロくんと別れたし……」

「全然理由になってないけど」

 ココアの袋にスプーンを突っ込む。あ、賞味期限昨日。まぁいいか、飲むのこいつだし。

 

「そんな好きだったの?そのヒロくんが」

てっきり「当たり前でしょ!」なんて即答すると思っていたのに、姉は口をつぐんでしまった。沈黙の中で、カップに温めたミルクを注いで、雑なココアを完成させた。かき混ぜながらカップをテーブルに置いてやった時、小さく「わかんない」と聞こえた。

 

「なら別にいいじゃん。次探せば」

「無理」

「なんで」

「ヒロくんっていうか、失恋そのもののダメージがデカい」

テーブルの上に突っ伏したまま、湿った声で姉は続けた。

 

「だって、わたしは……わたしにとっては、生活のかかった恋だった」

僕は聞き返す。「生活のかかった恋?」「そう、生活のかかった恋」。

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