ゆらゆらタユタ

アラサーとゆとりを取り巻くもろもろ

「首を探しに行きます」と言われて

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※久しぶりに創作以外の記事。ちょっと怖い話です。特定されそうなところはボカしています。

 

中学1年生の時、部活終わりに先輩に呼び止められた。


「着替え終わったら、1年全員で更衣室に来て」

いわゆる呼び出しだと思った。他の部活の同級生は「調子に乗ってる」「スカートが短い」なんて理由でしょっちゅうシメられていたから、ついにその洗礼を受ける時が来たと。


更衣室を使えるのは上級生だけで、1年生は練習場(室内)で着替えなければならなかった。いつもよりきっちり制服を着込んで、わたしたちは更衣室のドアをノックした。


まず驚いたのは、ひとつ上の先輩たちが全員その場にいたことだ。せいぜい部長含めた2、3人だと思っていたので、「大ごとだ」と血の気が引いた。1年生が揃っているのを確認して、先輩は更衣室のドアに鍵をかけた。

何を言われるんだろう……緊張していたわたしたちに、先輩の話した内容は想像のななめ上だった。

 


「むかし、学校の裏で事故がありました。今日のような雨の日のことです。数名が命を落としましたが、そのうちひとりの首が見つかっていません。……今からその首を探しに行きます


何を言ってるんだ?と思った。でも言える空気では全然なかった。先輩たちが真顔なのも怖いし、急に丁寧口調で早口になったのも不気味だった。


先輩の話によると、事故の犠牲者は3人。大雨の日、顧問の先生が女生徒ふたりを車で送ろうとしたのだけど、スリップして車ごと谷底に落ちてしまったらしい。先生と女生徒のひとりの遺体は車の中で発見されたのに、もうひとりの遺体は何故か車から少し離れた場所で、首がない状態で見つかった。女の子の右手は校舎の方角を指差していた。彼女は今も自分の首を探している。


わたしは思わず窓の外を見た。まさか今から雨の中、事故現場まで行くってことか?

そんなわたしの考えを見透かしたように、先輩は続けた。
「首探しはこの部屋でやります」

……首、この部屋にあるってこと……?
ゾッとしたけれど、そういう意味ではないようだった。今から全員で手を繋ぎ、目を閉じて、決まった道順を各々想像の中で歩く。目的地に女の子の生首があるので、回収して来た道を戻る。校門で首のない女の子が待っている。持ち帰った首を彼女に手渡ししたら終了。終わった人から静かに目を開けて、全員“帰ってきた”ら解散。


道順はけっこう複雑で、校門からどういうルートで校舎に入って、(実際には存在しない)地下室への階段を降り、地下のドアは何故か外に繋がっていて、橋がかかった池があり……みたいな感じだった(実際はもっと細かくどこを右、どこを左、何番目の……という指示があったと思う)。


加えていくつかのルールがあったが、覚えているのは「女の子の首は必ず両手で抱えること」「名前を呼ばれても振り返らない」「全員が目を開けるまで、ひとことも話してはいけない」だ。

 


わたしたちは輪になって手を繋いだ。茶化す人は誰ひとりおらず、異様な空気が漂っていた。先輩の合図でみんな目をつむって、指定のルートを頭に思い浮かべ始めた。わたしはとにかく怖くて早く終わらせたかったけれど、手順・道順を間違えたり飛ばしたらもっと恐ろしいことになる気がしたので慎重に進んだ。校門、地下室、橋、首。想像の中の女の子の首はあまりグロくなかったから、抱えるのにも抵抗がなかった。幸い、名前も呼ばれなかった。わたしが目を開けた時、半分くらいの子が“帰ってきて”いた。残りの子も数分ほどで目を開けた。


全員が“帰ってきた”のを確認して、先輩は言った。

「お疲れ様でした。来年の今頃、雨が降った日に、次の1年生に同じことをしてあげてください。伝統なので」


『してあげて』という言い方が、妙に気になったのを覚えている。先輩たちは早々に更衣室を出ていき、気の抜けた1年生の中には泣き出してしまう子もいた。わたしは自分たちが語り手になる来年まで、この複雑な手順を覚えていられるか不安になった。記憶が鮮明な今、全員で確認しながらメモを取るべきでは?とも思った。でも想像の中のモノを紙に書き起こすのは、恐ろしい何かが実体を持ってしまうようで嫌だった。

 


その後、話し手の先輩が謎の死を遂げることも、練習場に血の手形がついているなんてこともなく、ただただ普通に時間が過ぎた。わたしたちもこの伝統を継いで(自分たちの代で終わらせるのも怖かった)、次の年の5月の雨の日、後輩に同じ話を『してあげた』。「いつあの話を伝えるか?」などの相談をする時以外、暗黙の了解でこの話題はタブーだった。だから同級生の間でも、話題に出すのはほぼ1年ぶり。それなのに、全員が妙にはっきりと手順・道順を覚えていて、そのことが気持ち悪かった。


あの話を後輩が次の代に伝えたかどうかはわからない。5月の雨の日に、ふと思い出したので書いておく。

 

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中学時代にこれよりしんどかったこと↓

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