ごめんねマミコ、アプリ退会しちゃいました。
会って早々、ドリンクが運ばれてくる前に、レナは申し訳なさそうに言った。レナはマミコの高校時代からの友人で、今は大学職員として働いている。
アプリというのは、いわゆるマッチングアプリである。3年間彼氏のいないレナがアプリをインストールしたのは先月のこと。マミコはレナのプロフィール写真を撮影し、ほどよい加工を施して、ウケの良さそうな自己紹介文のライティングまでを請け負った。なぜならレナは放っておいたら証明写真みたいな無表情の写真と、履歴書みたいなテキストで登録しかねないからである。
その甲斐あって、登録直後からさばききれないくらいのいいね! が来た。レナは必死にスワイプを繰り返し、先月の土日はほとんどデートで埋めたらしい。……が、今はアプリを退会し、すべての男性と連絡を絶ってしまったと言う。
いい人いなかった? とマミコが問うと、そんなことないとレナは苦笑した。そんなことない。……ないと思う、と記憶を掘り返すようにして。
会った男性は全部で5人。写真と印象の違う人はいたものの、そんなのはどうでもいいらしい。みんな良い人で、楽しませようとしてくれてるのがわかったと。
でも……。
レナは少し間をとって、コーヒーカップに指をかける。
わたしには合ってなかったんだ。人として好きになる前に、異性としてジャッジしなきゃならないのがしんどくて。
……レナにとっての恋愛は、人としてのリスペクトがあり、その上に恋愛感情が乗って、はじめて完成するらしい。そういえば、元彼とも長い友達期間があったと聞いた。元彼は不登校の子供に勉強を教えるボランティアに精を出し、雨の日には妊婦に傘をあげてしまい、自分はずぶ濡れになって風邪をひく……そういうお人好しだった。レナは彼を人として好きで、その好意が恋になったのだろう。
マミコとは順番が逆だった。マミコが男性に求めるのは、プロフィールと異性としての魅力だけである。人柄なんかは二の次……というか、ほぼ見ていないと言っていい。その代わり、相手にもマミコの内面を見てほしいなんて思っていない。まだ女の子として価値があるよとちやほやしてくれればじゅうぶんだ。そんなマミコにとってマッチングアプリは最高の発明・無限ちやほや発生機だった。
マミコは中身を褒められても、全然嬉しくない。優しいね。頭がいいね。気が利くね。みんなマミコの盛れた写真にいいね! したくせに、外見に惹かれたわけじゃないですよ、みたいな顔してテキトーなことを言う。でも、マミコも同じような言葉を吐くのである。優しいですね。面白いですね。まるで年収も顔も関係なく、その人自身に惹かれているみたいな顔で、テキトーに。それがマミコの『恋』である。
マミコは空っぽのお茶汲みマシーンで、ほかの女の子みたいな意志やプライドは持っていない。空っぽの内側を褒められるより、磨いた外見を気に入られた方がずっとマシだし信頼できる。だから求めるものの明確なテツくんのことがマミコは好きだ。
レナはコーヒーカップを撫でながら言う。
わたしは向いてなかったけど、みんなはちゃんと向き合って、結婚したりしてるんだもんね。……だから、全部言い訳なんだ。
マミコと違ってレナは人間だ。だから人間として見てほしいし、人間と恋をしたいのだろう。それはマシーンであるマミコにも理解のできることだった。
そんなに思い詰めないで。たまたまアプリが合わないだけだよ。
寂しげに目を伏せたレナに、マミコはそう言って笑って見せた。アピュのジューシーパンスパークリングティント(※1)はもちがいいから、紅茶に少し口をつけたくらいではまだ綺麗な色を保っているだろう。いつもより少し濃い目のRD01(イチコロライチ)は、肌を白く綺麗に見せてくれる。
レナは美人だけど、内面もすごく魅力的な子だ。真面目で親切。自分にも他人にも常に誠実であろうとする。少し潔癖で融通の効かないところもあるけど、他人への敬意や愛の深さは、欠点を補ってあまりある。そんなレナの中身を見る前に、外見だけで好きだのなんだの言う人間の胸に飛び込めない気持ちはよくわかる。……いや、わかる気がする、というべきか。マミコなら余裕で飛び込める。こんなんで良ければ好きにしてくれ。そうやって、自分も他人も雑に扱ってきた。
マミコはマミコに優しい男が好きだけど、レナはたぶん、自分以外にも優しい男が好きなのだ。そういう意味でも、一対一での出逢いに彼女は向いてない。
こういう時、信頼できる男友達を紹介できたらいいのにな……とマミコは歯がゆく思う。アプリで出会った男たちは自己申告のプロフィール以上は何も知らないし、セリザワさんは『愛』する家族がいるのに『恋』してる俺……に興奮するタイプの変態だし、テツくんは一応本命だし……そもそも人格が破綻している。男の知り合いは山ほどいるのに、資生堂のザ・コラーゲンドリンク(※2)やメディヒールの2ステップマスク(※3)より信頼できる男友達がいないのは、マミコがマシーンだからだろうか?
しばらくアプリはいいや。習い事でも始めようかな、と笑ってみせるレナの顔には、諦めの色が滲んでいた。レナと別れたマミコは駅のトイレで化粧直しをし、今日もアプリの男とご飯に向かった。マミコはテツくんが1番すきだが、彼に重いと思われたくないので、なるべくちやほやされる予定を作って気を紛らわせることにしている。都合よく、面倒くさくなく、油断せず。
すみません、マミコさんですか?
男に声をかけられた瞬間、不意にショウタならレナとお似合いでは?と頭に浮かんだ。そのせいで頷くのが一瞬遅れた。なぜ今。それは、流石に、でも。
暴走する脳をシャットダウン。全自動お茶汲みマシーンは考えるのをやめ、目の前の男に笑ってみせた。
はじめまして。写真より素敵でびっくりしました♡
おしまい
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(※1)アピュのジューシーパンスパークリングティントはラメが綺麗で発色も良く、色もちも良い。可愛い色味が揃っているので、複数買いするのも楽しい。
(※2)(※3)資生堂のコラーゲンドリンクとメディヒールの2ステップマスクは、大事な予定の3日前から飲んでおくと肌の調子が超絶整う。資生堂のコラーゲンドリンクは割と美味しくて低カロリー、メディヒールは今まで作ったあらゆるマスクの中でも断然の効き目だと思う。2stepマスクはめちゃめちゃ保湿力のあるクリームがつく。朝顔を洗った後、ツルツルでちょっとびっくりした。
アラサーも極まってくると、前日にジタバタしたところで肌の調子をMAXにするのが難しいんですが、3日前から資生堂コラーゲンドリンク&メディヒールの2stepマスクをして当日ワセリンのパックしてからメイクすることで生理前でもモチモチの肌を実現できる知見を得たので共有します。現場からは以上です。 pic.twitter.com/urAUnhCkza
— 白井瑶(しらいよう) (@shiraiyo_) November 13, 2020
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