ゆらゆらタユタ

アラサーとゆとりを取り巻くもろもろ

テニス、セックス、ヘッドスパ

テニス、セックス、ヘッドスパ

30になってもセックスの良さがイマイチ分からず、女友達が絶賛するセフレと寝てみることにした。


「絶対に好きになりません」

「セックスは1回きりです」

「連絡先は消去します」


そんな念書まで書かされたので、「ランちゃんが彼を好きなら遠慮するよ」と言ってみたのだけど(わたしは『友達のセフレ』とは寝れても『友達の好きな人』とは絶対に寝ない、わりかし硬派な女なのである)、「そんなわけないじゃん」と返されて、その顔は少し引きつっていたような気はするけれど、「友達とセフレをシェアってのも気持ち悪いじゃん?」「こっちが会えなくなるのも嫌だし」「彼はわたしの……わたしの、いつでもセックスできる、都合のいい男なんだから」という、「わたしが好きなのはあくまでも、『彼とのセックス』なんですよ?」を強調しまくる念押しの後で、微妙に盛れていないわたしの写真がセフレの彼に送信された。返信は10分たたずに来た。


「今日でもいいよ。18時以降にウチでヨロシク」

グーグルマップで住所を共有。デキる男はスムーズである。


それから30分くらい、ちょっと不機嫌になったような、そうでもないようなランちゃんに「まぁ上手いって言っても相性はあるけど」「ちょっと小汚い感じだし、あなたのタイプじゃないかもね?」などと言われながらお茶をして、わたしは男と寝るため店を出た。

 

知り合いの紹介とはいえ、初対面の女に警戒心ゼロで住所を教えるランちゃんのセフレは、確かに長髪でヒゲを生やしていたが、不潔な印象はまるでなかった。むしろベースは塩顔イケメンに属する顔で、わたしは逆にがっかりした。いかにもランちゃんの好きそうな男だ。ホンマにセックス上手いんでっか? 顔面ボーナスちゃいまっか?

 

 

それから2時間後、わたしはひとりで部屋を出た。……なるほどなるほど……顔面ボーナスとか言ってごめん! 確かに上手かったです。ムード作りと気遣いがすごくて、大事に扱われている感覚があって、食べログだったら長文ポエムなレビューを書いちゃうとこだった。それでもやっぱり「ハマる」ほどではなかったし、ランちゃんとの約束を破ってまで、また会いたいとは思わなかった。特別上手い人でもこんなもんなんだな、と思うと虚しいような腑に落ちるような、柔らかい色の諦めがうまれた。そのまま美容院に電話したら、奇跡的に席が空いていたのでヘッドスパを受けることにした。わたしはヘッドスパが大好きである。

 

担当してくれる女の子は、元ソフトボール部らしくて手と指の力が強くて最高。凝りがゴリゴリほぐされていく。頭を揉まれるとこんなに気持ちいいの、人体のバグじゃないですか? もはや胸より頭揉まれたい。


「今日もこってますね」と笑う美容師に頭をあずけ、わたしは彼氏のことを考えていた。最近結婚を匂わすようになり、不自然なタイミングで「セックスレスは離婚理由になるんだってね」と2回挟んできた彼は、視界の端でわたしの表情をうかがっていた。彼との付き合いは4年を超えて、ここ1年は完全にレスだ。


彼のことは好きだけど、セックスはもうしたくない。それはランニングに行きたくないとか、寝る前にテニスをしたくないとかそういう感じ。超絶ラリーが上手い相手とならば楽しく試合ができたけど、だからって別に好きにはなれない。仮に相手がランちゃんのセフレでも、そのうちレスになるだろう。


わたしにとってのセックスは、運動オンチのテニスである。しかも楽しそうに声をあげながら、相手の気の済むまでボールを打ち返すルール? マナー? いや、別にそんなことないんですか? 初体験から何年経っても、セックスのことは何もわからない。


彼は決して無理強いしない。むしろ『しない』を強要したのはわたしだから、責められるべきはこっちだろう。態度で拒否して、空気を読ませ続けた結果、結婚をチラつかせながら、彼に決断を迫られている。なんて美しいブーメラン。

 

ゴリゴリと頭をほぐされて、気持ちよく力が抜けていく。同時に、これに勝る快感をセックスで味わえないのは、わたしの欠陥なのでは? という気がしてきた。もう本当に終わりかもしれない。


「はい、終わりですよ」

美容師の声にドキッとした。


「……あ、はい。終わり……終わりですよね」

「ふふ、もしかして寝ぼけてます?」

わたしの奇妙な反応に、美容師の彼女は得意げに笑う。


「えへへ、うちのヘッドスパ好評なんですよ。寝落ちしちゃう人も多いんです」

……いや、寝たかったんですけどね。ちょっと考えごとしちゃって。……ゆーてさっきまで友達のセフレと寝てきたんやけど。いや寝る違いやがな!  もうええわ、ありがとうございました。本当に、どうもありがとうございました。

 

次はカラーですねと微笑む美容師に会釈して、わたしは美容院を出た。


セックスが好きになれないなら、誰のことも好きになりたくなかった。彼の優しいところ、可愛いところ、少し頑固なところや見た目も含めて大好きなのに、こんなことでダメになってしまうのか。いや、『こんなこと』じゃない。大事なことだ。それができないわたしが悪い。横断歩道で泣きそうになって、ぐっと奥歯を噛み締める。


あぁ、それにしても、ヘッドスパ本当に気持ちよかった。……また今日の人にお願いしたいな……カットとは別に、ヘッドスパだけ指名できるかな……頭の中を塗りつぶすように、そんなことばかり考えるけど、「親が東京来るけど、会う?」というメッセージの受信知らせるApple Watchは、彼からの誕生日プレゼントだった。

 

おしまい

 

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