ゆらゆらタユタ

アラサーとゆとりを取り巻くもろもろ

ミホちゃん、不倫やめないってよ。

高校の後輩であるミホちゃんの不倫を知ったのは、社会人1年目の秋だった。


彼女を一言で表すならば『可愛い子』だ。明るく何事にも一生懸命。芸能人で言えば宮崎あおいさんのような愛らしい雰囲気の持ち主だ。

高校卒業後短大に進んだミホちゃんは、就職するまで誰とも付き合ったことがなかった。そんな彼女の初めての『彼氏』は奥さんのいる人だった。

社会人になって数年経つと、不倫経験者の割合も高くなる。だが当時、私の親しい友人がそこに足を踏み入れたことはなかった。
やめたほうが良い。そんな平凡すぎる忠告にミホちゃんは困ったように、ですよねと笑った。その曖昧な表情に、あぁ、これはやめないだろうなと思ったのをよく覚えている。

 

周りの不倫カップルは、既婚男性と独身女性の組み合わせがほとんどだ。会社や社会人サークルで出会い、立場も年齢も男性側が上の場合が多い。
ミホちゃんのケースも典型的で、相手は会社の上司だった。残業終わりに飲みに誘われたのがきっかけらしい。

 

不倫と飲酒運転

不倫は飲酒運転と似ていると思う。
酒を飲んでも無事故で目的地に辿り着けるドライバーはいる。

それと同じく、既婚者と付き合っても相手の家庭を壊すことなく、美味しいところを味わってすっぱりやめられる人もいるだろう。しかし大抵は結婚願望が強いのに相手の離婚を年単位で待ち続けたり、相手の家族に知られて地獄を見たり、多かれ少なかれ傷つくことになる。


相手が真剣な恋愛を望み、自分を『遊び相手』ではなく『恋人』として見ることをわかって手を出す既婚者は本当にタチが悪い。

不倫を飲酒運転に例えるなら、酒にあたるのは口説き文句だ。君だけだ。愛してる。普段なら既婚者が何を言ってるんだと、口もつけないかもしれない。けれど、弱っている時だったら?尊敬する人に勧められたら?ミホちゃんのように、それが初めての酒である可能性もある。

そうしてベロベロに酔わせて運転席に押し込んでハンドルを握らせる。そして車が動き出せば、アクセルを踏んだのは君だよね?と口元を歪めて笑うのだ。既婚者側が独身だと偽っていた場合を除いて、不倫の責任は両者にあるのは間違いない。私もいくら友人とはいえ、ミホちゃんは悪くないとは言えない。しかし、こうした場合でも本当に責任は半々なのだろうか。

 

 

ミホちゃんはそれからもズルズル彼と付き合ったが、20代半ばに差し掛かってからは関係を考え始めたようだ。実際、何度か別れを告げた。しかし、その度彼はミホちゃんに縋った。離婚を仄めかし、時には泣いて見せたりした。別れられませんでしたと報告してくる彼女の顔には、いつも喜びが滲んでいた。

 

一度だけ、ミホちゃんの彼に会った。
今から数ヶ月前の話だ。何度か目の別れ話で私の名前が出たようで、彼から会いたいと申し出てきた。

 

気持ちの悪い時間だった。
彼はミホちゃんをどんなに愛しているかを語ったが、いつ離婚するのか期限を迫るとお茶を濁した。子供がまだ小さいから、だそうだ。ひとりの女性の若い時間を、少なくともあと数年は搾取し続けるつもりらしい。
彼女の友人である私に会うのはおそらく誠意のアピールだ。ミホちゃんの後ろの小うるさい女を黙らせる狙いもあっただろう。確かに顔の整った男で話し方も上品だったが、恋愛フィルターがかからなければ滑稽な脳みそチンコ男である。

 

ミホちゃんがトイレに立った際、脳チンは沈黙を破るみたいに言った。白井さんは理性的だね。皆が皆、理性で気持ちを抑えられたらどんなにいいだろうね。
皆が皆、理性をなくしたら社会はなりたたなくないですか。
そう答えた私の顔には不快がにじみ出ていただろうが、彼は微笑むだけだった。連絡先を聞かれたので断った。

 

今でもミホちゃんは脳チンと付き合っている。

奥さんへの嫉妬に狂いそうなんです、と泣いた彼女を思いだす。ミホちゃんは今でも酔ったまま、アクセルを踏み続けている。トランクは空っぽのままだ。ここまで来たら事故を起こすかガソリンが切れるまで止まれないかもしれない。

 

脳チンは一応管理職である。それなりに常識は持ち合わせているはずだ。ミホちゃんが本当に酒に酔い、車であなたの家まで送る、と言い出したら彼は必死で止めるだろうし、絶対に助手席には乗らない。それなのに、不倫では自らエンジンをかけさせるような真似をしている。自分の家族が待つ家に、飲酒運転の車が突っ込む未来を想像したことはあるのだろうか。

 

今の私に出来るのは、ミホちゃんが自分でブレーキをかけるよう祈ることだけだ。月末の合コンに誘ってみたが、返事は未だに来ていない。


蛇足

水商売は、金銭と引き換えに酔った『フリ』をしてもらえるサービスだと思う。まだ自分の注ぐ酒が賞味期限切れでないか不安なだけなら、そういった場でやってほしい。