ゆらゆらタユタ

アラサーとゆとりを取り巻くもろもろ

全自動お茶汲みマシーンマミコと後輩指導

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マミコの後輩が入社してきたのは、昨年のちょうどこの時期のことだ。

専務の遠縁の親戚か何かで、いわゆるコネ入社である。日本有数の名門大学に現役合格したにも関わらず、半年経たずに中退したらしい。

4年半前のマミコの新卒入社以来、事務員の採用は初めてだった。そのマミコの入社時より若い『10代の女の子』が来るとあって一部の男性社員は色めき立ち、マミコちゃんも若い子枠奪われちゃうね(笑)と軽口を叩く者もいた。しかし、彼女の入社を最も心待ちにしていたのは他でもないマミコだったのである。

中途半端な歴史を持つこの会社には、『一番若い事務員が』『自主的に』『誰の評価も求めずに』行うことを期待される昭和の残り汁に漬けたボロ雑巾のようなクソルーティンがあり、そのバトンを渡せると思っていたのだ。

しかし、結論から言うとその目論見は外れた。入社してきた後輩は極度のコミュ障でろくに挨拶もできない上にこだわりが強く、事務仕事以外は断固拒否した。私の役割じゃないから、だそうだ。指導係の先輩社員とマミコの前でうつむいて、手と唇を震わせながら、いやです、を繰り返す姿は、全自動お茶汲みマシーンとして言われるがまま、流されるまま生きているマミコにとっては衝撃的だった。

苛立つ先輩社員をなだめながら、マミコは自分からクソルーティンの継続を申し出た。全自動お茶汲みマシーンはマシーンなので切り替えと諦めが早い。後輩など入ってこなかったと思えばいいのだ。この面倒な後輩の指導係でないだけ幸運である。先輩、マジで頑張ってね!

 

 

指導係の先輩は30代後半の独身女性で、社歴10年以上のベテランだ。挨拶はして。わからないことは自分から聞いて。気づいてもらえると思わないで。言われたらお茶ぐらい汲んで。繰り返す注意の言葉にも固い響きが混じってくる。

通りがかった男性社員が、若い子をいじめるなよと茶々を入れる。いいじゃん、嫌がってんだから。お茶なら他の子に淹れさせれば?数日前、失注した部下を怒鳴り散らしていた口でよく言えたものである。

先輩社員は何か言いたげに彼を見たが、目を伏せて唇を噛みしめたあと、そうですねと言って場を後にした。

マミコは後輩相手に微笑みかける。わからないこと、いつでも聞いてくれていいからね?後輩はこくりと頷いたが、彼女が声をかけてくることはおそらくない。マミコにとってはそれより自分が気配りのポーズを示せたことと、朝から化粧直ししていないにも関わらず、マキアージュのジェルエッセンスルージュの色艶が唇に残っていることの方が重要だった(※1)。

しばらくすると先の男性社員が戻ってきた。大丈夫?女って怖いよねぇ。若くて可愛いから嫉妬してるんだよ。やたらと大きな声なのできっと先輩にも聞こえただろう。ぽきりと心の折れた音が、マミコの耳には確かに届いた。

見当違いの慰めを口にする彼が、後輩となぜかマミコのデスクにもコンビニのモンブランを置いていく。嫉妬?本気で言ってるの?……本気で言ってるんだろうな。マミコは苦笑しつつ、軽く会釈するだけの後輩に代わってありがとうございますと言った。彼が満足そうに去った数秒後、珍しく後輩が口を開く。モンブラン、嫌いなのに……。

 

ある日マミコがお使いから帰ると、後輩が泣いていた。例の男性社員に怒鳴られたらしい。来客があったのだが事務員は全員手が離せず、彼はその後輩にお茶汲みを頼んだ。何度も急かされしぶしぶ給湯室に立った彼女は、お茶の淹れ方がわからずに茶葉をその辺にあったマグカップーーちなみに部長の私物だったーーに入れ、水道水を注ぎスプーンでかき混ぜたものを出したのだという。男性社員は恥をかかされたと、たいそうお怒りになったそうだ。ちゃんちゃん。

大丈夫?マミコは後輩に声をかけたが、私の仕事じゃないのに、私の仕事じゃないのに、と繰り返すばかりだ。涙がポタポタとデスクに落ちていくつかの書類にシミをつくった。指導係の先輩は今日に限って有給である。

あーあ、と思いつつマミコはカバンを持ってトイレに立ち、NARSのラディアントクリーミーコンシーラーで鼻周りと目の下をカバーして(※2)コスメデコルテのAQ MW フェイスパウダーをはたき(※3)、大手出版社との合コンのために退社した。マミコにとっては泣き出した後輩より、先輩社員の虚しさより、自身の作り込んだ肌の滑らかさとワンプッシュしたジャドールのヘアフレグランスがふわりと香ることの方が、やはり重要なのだった(※4)。

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(※1)マキアージュのジェルエッセンスルージュはこの手のリップにしては非常に持ちがよく、塗りやすさ、コンパクトさも気に入っている。若干デザインがチープなのが気になるが、中身が優秀なので2色買いした。ほどよくふっくら、ツヤツヤになる。ネーミングも可愛いと思った。クリアタイプのピンク【Why not?】、同じくレッドの【Hi】を購入。男性ウケもばっちりだ。

(※2)結局、NARSのラディアントクリーミーコンシーラーが最強だと思っている。カバー力がありヨレにくく、かつ少量でよく伸びるのでコスパが良い。厚塗り感もないので本当に重宝している。ファンデはよく変えるが、コンシーラーはこれ一筋だ。

(※3)コスメデコルテのAQ MW フェイスパウダーを使っている。カラーは80 glow pink。ほんのり血色が良くなり、程よいツヤも出る。毛穴カバーもそこそこ。

(※4)ディオールのジャドール ヘア ミストを愛用している。少し大人っぽい香りでつけすぎるとおばさん臭くなるが、少量だとうっとりするような良い香りだ。エッセンシャルオイルによる髪のツヤは正直よくわからないが、髪が揺れた時に香るのは自分のテンションも上がる。