マミコは美女ではない。中の中だと思っている。
それでも周りの女達よりいつも少しだけ優遇されてきたのは、可愛いを作ってきたからである。マミコは自分の容姿を知っている。欠点は鼻筋は通っているが少々団子鼻なこと、唇が薄いこと、目が少し離れていること、丸顔であること。逆に美点は末広型の二重であること、肌が白くてトラブルが少ないこと、比較的華奢な骨格なこと。
リップはインテグレートグレイシィのリップライナーで若干オーバーリップにして、不自然にならない程度にふっくらとさせる(※1)。だからグロスも必須である。最近ジバンシィの塗る人によって色が変わる透明グロスを手に入れたが、キャンメイクとの差があまり感じられなかった。ジバンシィが悪いというよりは、キャンメイクが優秀なのだろう(※2)。
団子鼻はハイライトを鼻先につれて細くなるように入れ、膨らんだ部分にケイトのアイブロウパウダーで影を入れて誤魔化すテクニックを覚えた。そうやって研究を重ねて、誰が見ても女の子らしい、好感度の高い見た目を手にした(※3)。
マミコはブルーベースの夏。パステルカラー、青みがかった色がよく似合う。
昔は服もチークもオレンジ色が大好きだったが、パーソナルカラー診断を受けて以来、オレンジ系のものは買わなくなった。マミコの中では好きな色よりも似合う色。自分を魅力的に見せてくれるものに価値がある。
シュウウエムラのチーク(グローオン)で言えば375番。イヴサンローランのルージュ ヴォリュプテ シャインのリップはフューシャインテンスを持っている。
先日の女子会で、大学同期のサヤとユウカが、メイクもファッションも男の目を楽しませるためのものではないのに、勘違いしている男が多いとぼやいていた。頼んでもいないのに、そういうのは男受けが良くないだとか、全然可愛いと思わないけど、なんてアドバイスめいたことを言ってくるらしい。自分の好きなものを身につけているだけなのだから、黙っていろよとふたりは言う。けれど、マミコの場合は美容やファッション、引いては外見全体を男受け重視で作り込んでいる。
マミコは奇抜なメイクはしないし、マニキュアも一見何も塗っていないかのようなナチュラルなピンクしか使わない。髪はツヤ重視で軽くカールさせ、一定以上の明るさにはしない。
マミコは自分に自信がない。
これと言う特技はないし、誰にでも出来る仕事しかしてこなかった。全自動お茶汲みマシーンには一生自分ひとりの力で生きていくなんて無理だ。だから、周りに助けてほしい。
男の人は女の容姿に影響されやすい。女をナチュラルに見下しているから、女っぽい見た目の女には期待しないし、だからこそ優しい。マミコは何も出来ない自分を許容してほしくてたまらない。見下されたって構わないから、あらゆる時に手を差し伸べてほしい。
大手広告代理店の営業のサヤの首には、いかにも男受けの悪そうなゴツいシルバーアクセサリーが光る。アパレル企業で企画をしているユウカのネイルは彩度の低い赤をベースに、ゴールドのストーンがちりばめられていた。マミコにはそれらが、男に頼らなくても生きていける自信の表れに見えてならない。あーあ。
スタージュエリーの華奢な時計をつけた手を、マミコはテーブルの下で握りしめた。
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(※1)色持ち、描きやすさ、どちらもインテグレートグレイシィが優秀で気に入っている。見た目が可愛いとは言い難いが、繰り出し式で安くてかさばらないので何度かリピートした。
(※2)ジバンシィのグロス・レヴェラトゥールのラメなしを購入した。見た目が可愛いのでテンションが上がるが、中身は可もなく不可もないと感じた。
値段を考えるとキャンメイクのユアリップオンリーグロスで問題ない気がした。
(※3)ケイトのデザイニングアイブロウNは、眉のほかにシェーディングにも使える。マミコは団子鼻解消以外にも、大きなブラシを使って輪郭のシェーディングにも使っている。値段の割に優秀すぎて手放せない。