ゆらゆらタユタ

わたしのブログ

口裂け女に「ブス!」と叫べば

内田ゲンペイの趣味は、終わっていることに、道ゆく知らない女に向かって「ブス!」と叫ぶことだった。あと混み合う駅で大人しそうな女を狙ってぶつかりに行ったり、エレベーターで女とふたりきりになれば不必要に距離をつめ、怯える様を楽しんだりもした。少しでも相手が警戒する素振りを見せれば、「警戒してんじゃねぇよ! ブスが!」と罵るなどし、日頃の鬱憤を晴らしていた。嘘みたいに人間性が最悪であった。

 

仕事終わり、特に理由はないけどむしゃくしゃすんな〜と思った彼は、今日も適当な女に罵声を浴びせることにした。駅前のコンビニでストロングゼロを購入し、店の前で一気に飲み干す。そして自転車に乗り(※道路交通法違反)今夜のターゲットを探しに夜道に繰り出した。ぶつかり活動なら人が多い場所に限るが、声かけならば人通りのない夜道がベストだ。ひとりで歩いている女にちょっとした恐怖を与えるのは、彼にとって教育の意味合いもあった。女が偉そうに道を歩くなど生意気であり、それをわからせてやる……そんな意味不明の自論を持って、彼は自らの行為を正当化していた。

続きを読む

糸が切れるふたり

幼なじみって言ったって、好きで仲良くしていたわけじゃない。母のパート先の和菓子屋の娘が、わたしと同い年だった。それだけ。幼稚園児のわたしには、すでに友達がたくさんいたし、近所に従姉妹も住んでいた。遊び相手には困ってなかった。困っていたのはミドリの方だ。ひっこみ思案でママにべったりで、幼稚園にもろくに通えていなかった。


そんなミドリの両親――つまりうちの母の雇い主夫婦の「うちにも同い年の子がいるんだけどぉ……」によって、わたしとミドリは引き合わされた。なぜかミドリはわたしを気に入って「ナコちゃんと遊びたい」と言うようになった。その度にわたしは付き合わされた。幼稚園児ながら、はっきり『付き合わされている』という感覚があった。広くて綺麗なミドリの部屋で、可愛いお人形で遊び、高級なお菓子を食べながら、「外で鬼ごっこがしたい」と思った。

 

 

 

続きを読む

彼女が『姉』になった日(後編)

(前回の話)「姉の死により、私の人生も終わった」から始まるその文章は、山田さんの告発だった。

……姉の命を奪った事故以降、山田さんは姉の代わりになるため生きてきた。家では姉の名で呼ばれ、姉の部屋と遺品を使い、骨を喰らって暮らしていた。8月の終わりの姉の命日に、両親によって保存されていた姉の魂が、山田さんの体に降ろされる。……と。

「姉の魂をこの世に繋ぎ止めるため、父は右目の視力、母は左手の感覚を失った。今度の儀式で両親は……私は何を失うのだろう」

「姉の力は確かに強い。私より、姉が生きていた方が救える人は多いだろう。でもだからといって喜んで体を捧げられない。私はどこかおかしいのだろうか。今は怖くてたまらない」

「夏休み明けから登校しているのは、私のようで私ではない。姉である」

 

 

 

続きを読む

彼女が『姉』になった日(前編)

中学生の頃、新聞委員だった。しかも委員長だった(じゃんけんに負けた)。活動内容は月イチの学年新聞づくり。新聞といっても、印刷してみんなに配るわけじゃない。生徒指導室の前の壁に掲示するのだ。各クラスの委員から記事を回収し、体裁を整えながら模造紙に貼り合わせるのが、委員長のわたしと副委員長の山田さんの役割だった。

 

どこの学校でもそうだろうけど、あの手の掲示物は誰も読まない。書き手も読まれると思って書いていないし、実際マジで読む価値もなかった。「花壇のチューリップが咲きました」「来週から清掃強化週間です」「あいさつをしましょう」……わたしが委員長になり初めて出した『学年新聞5月号』は、ペットボトルのラベルでも読んでいた方がマシな仕上がりだった。

 

 

 

続きを読む

【NANA】高木泰士という男

「NANAは人生」

子供の頃に好きだった本や漫画は、今読み返しても面白い。NANAを初めて読んだのは中学生の頃だと思うけど、むしろ今の方が楽しく読めてる感じもする。
ただし連載当時と今では、多くのキャラの印象が変わった。例えば主人公であるナナと奈々(ハチ)。かつてはカリスマと美貌を兼ね備えたナナこそが憧れだったのだけれど、彼女は気は強いがメンタルは脆い。大人になった今、華やかな側面よりも不安定さが印象に残る(もちろんキャラクターとしての魅力もある)。

一方「普通の女の子」の代表として見ていたハチは特別な子だった。健康な心身の持ち主であり、その健やかさ・朗らかさは、登場人物のほとんどが多かれ少なかれ闇を抱えるNANAの世界ではひときわ輝きを放っている。恋愛体質ながら特定の相手に依存せず、落ち込んでも回復が早い。ひとりでは生きていけなくても、周りの人を味方につけてどこでも生きていけるタイプだ。

(「心身健康」のカードの強さ、大人になってから身にしみる……)

www.yoshirai.com

NANAの登場人物たちは、少女漫画らしいファンタジー性を持ちつつ、それぞれ絶妙なリアリティをまとう。そんな中、わたしが最も(ある種の人間にとってあまりに理想的、という意味で)ファンタジー性が強いと思うキャラは、ナナの所属するバンド・ブラストを率いるヤスである。

 

続きを読む

魔法使いが盗んだ10年

「就職できませんでした」

リュックとキャリーバッグを抱えたタクマが、うちに転がり込んできたのは2012年の春だった。1年の留年を許した両親も、就活資金と渡した金をパチンコに使われ堪忍袋の緒が切れたらしい。卒業と同時に仕送りは終了。家賃を払えなくなって、路頭に迷ったタクマが選んだのは、自分に惚れてるセフレのところ。つまりわたしの家だった。


タクマは大学の同期だった。背が高くスタイルが良いので、どんな格好もサマになっていた。目を奪われるようなイケメンじゃないけど、笑うと見える八重歯が可愛い。バンドではベースを弾いていた。でも実は、ボーカルよりも歌が上手い。人懐っこいのにつかみどころがなく、相手をその気にさせてはヒラヒラ逃げる。わたしもタクマに心を奪われた女のひとりだ。けれどそのことを認められず、興味がないフリをしていた。……でもそんなのは当然タクマには見抜かれていて、「リナといると楽。他の女の子みたいに泣いたり怒ったりしないから」なんて予防線を張られた上で、家に呼び出されたり来られたり、結局都合よく使われた。


わたしの卒業は震災の年で、卒業式は中止になった。引越しの日、トラックに荷物を乗せ終えたタイミングで、自転車に乗ったタクマが現れた。「卒業おめでとう」と言って、近くの花屋で600円で売ってる花束をくれた。


「次の家にも遊びに行くね」
タクマはそう言ったけど、連絡がないまま花は枯れ、季節がひと回りした。翌年の春に現れた彼は、晴れて無職となっていた。

 

続きを読む

誰でも良かったはずなのに!

こんにちは!セックスレスの人妻です。

4年前にビビっときて、交際半年で結婚しました。んで新婚5ヶ月でレスになりました。和牛水田似の夫は中学教師。授業に部活に事務作業、いつも遅くまでお疲れ様です。でも毎晩毎晩疲れてるって、疲れてない日はいつですか? 織姫と彦星だって、もうちょっとセックスしてるんじゃ? それでも手を変え品を変え、がんばって誘ってみたけれど、「性欲やば(笑)」とまるでこっちがやりたいだけの性欲モンスターみたいに言われて心が折れました。合掌〜🙏

 

 

 

続きを読む