ゆらゆらタユタ

わたしのブログ

平行線のあなたとわたし

「最低、本当に最低。今すぐ死んでほしい」

こんにちは。現場の幡野です。ここは大学の空き教室。寒いくらい冷房が効いています。今すぐリュックから上着を取り出し羽織りたいのは山々ですが、それも厳しい状況です。なぜなら教室にいるのはわたしとアキナちゃんのふたりだけ。アキナちゃんはわたしより薄着だし、何よりブチギレています。


アキナちゃんが怒っているのは、アキナちゃんの彼氏だった人を、わたしが寝とったからでした。これだけ聴くと100割わたしが悪いのですが、一応わたしにも言い分があり……でもアキナちゃんは聞き耳持たず……なので、代わりと言ってはなんですが、これを読んでいるあなたに聞いてもらっても良いですか? よろしくお願いいたします。

 

 

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全自動お茶汲みマシーンマミコと愛の日々

気づけば2ヶ月、マミコはプライベートでテツくん以外に会っていない。金曜の夜から日曜の夕方まで、テツくんの部屋で過ごす週末を繰り返している。テツくんと正式に付き合い始めたわけではない。スガワラさんに捨てられ、自暴自棄になったテツくんのそばに、マミコが勝手に寄り添っている……というのが実態に近い。

 

テツくんの元・婚約者だったスガワラさんは、マミコとの浮気を知って、スッパリと彼を切り捨てた。テツくんがどんなに言い訳しても、マミコが機械の心臓を軋ませながらテツくんの嘘に協力しても、彼女の心は動かなかった。いやむしろ、マミコの痛々しい演技はスガワラさんの同情を生み、ますます別れの意志を固めたとも言える。

 

テツくんは一応出勤はしているが、週末はほとんど引きこもりだ。表情にも覇気はなく、放っておけばいつまでもベッドで横になっている。出されなければ食事もしない。それほどまでに憔悴している。
じゃあ浮気なんかしなきゃ良かったのに。そんな正論は、マミコの口からは絶対言えない。

 

金曜の夜、オフィスを後にしたマミコはスーパーに立ち寄り、週末用の食材をどっさり買い込んでテツくんの家に向かった。合鍵(そう、合鍵をもらった!)を使って部屋に入り、荒れ放題のリビングを軽く片付けてから料理を始める。仕事後は直帰すると言っていたテツくんは、日付が変わる頃に帰宅した。ひとりで飲んできたようで、ベロベロに酔っていた。一緒に食べようと用意した夕食。は、明日食べれば良いだけなので、本当に全然悲しくない。

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家族にもなれないくせにバカみたい どうせ離れていくのに何なの

こちらの話とリンクしています

去年の誕生日、彼から花束をもらった。わたしの好きなダイヤモンドリリーがふんだんに使われた大きな花束。幸せな気持ちで花束に顔をうずめるわたしに向かって彼は言った。

「30歳。俺に捨てられたら、無職の家無し30女になっちゃうね」

……もちろん冗談、ジョークである。

 

 

8時に彼を送り出してからソファでうとうとし、目覚めたらすでに12時を回っていた。大きく伸びをして起き上がる。開け放した窓から吹き込む風が気持ちよかった。わたしは大きく伸びをしてキッチンに向かった。朝食で使った皿やコップがまだシンクの中に残っている。構わず小鍋で水を沸かして乾麺を突っ込み、冷蔵庫の中の野菜とベーコンを炒め、作り置きの味玉を乗っけてラーメンが完成。ローテーブルに鍋敷きを置き、器に移さずそのまま食べた。みんなが慌ただしく働いている平日の昼間に、わたしは何の不安もなくラーメンを啜っている。幸せだなぁ、と思った。

 

テレビをつけると、いつものワイドショーが始まっていた。わたしに関わりのない企業の不正、遠い地方の火事や知らない政治家の失言に続き、話題は大物お笑い芸人のスキャンダルに移った。仕事をやるとか干すとか言って、女性タレントたちに関係を強要したらしい。被害者は名乗り出ているだけで5名。中には、数ヶ月前まで彼の番組に出演していた女優もいた。

 

……また、こんなニュース。

わたしは不愉快になってテレビを消して、まだ少し残っている麺とほうれん草を生ごみにした。こういう時は掃除に限る。鍋や食器を一気に洗い、作業台を消毒した勢いでコンロの五徳まで磨いた。それから窓を拭き、玄関とリビングに掃除機をかけ、玄関の掃き掃除を無心でこなした。一度も手を休めることなく、最後にトイレのドアを開く。

ワイパーで棚の埃を落としていると、ふと「あの日もトイレ掃除をしたな」と思った。あの日……マコが会いにきてくれたのはいつだったっけ。2ヶ月、いや3ヶ月前? 雨が降っていたのは覚えている。

 

……マコと会うことは、何週間も前から彼に伝えてあった。当日、日課の家事を早めに終わらせ、玄関で靴を履いている時に、トイレ掃除をしろと言われた。「帰ってからやる」と一応言ってはみたけれど、聞き入れてもらえるはずもなかった。ついでにトイレットペーパーの買い出しまで命じられ、それこそ帰りに買ってくるのにと思ったけど、反抗したところで無駄。それどころか彼が機嫌を悪くするだけなので、「わかった」と返事して、財布をポケットに入れて部屋を出た。

 

エレベーターを降りて走った。わたしたちの住むマンションの向かいのビルの一階はファミマで、その隣にはスーパーが入っている。でもトイレットペーパーは、駅前のマツキヨで買う決まり。駅までは徒歩15分。走れば10分? 帰りはトイレットペーパーを抱えて走った。薄いワンピースの裾が足にまとわりついて不快だった。

 

家に帰った時点で待ち合わせ時間は過ぎていた。薄々予想はしていたけれど、トイレの収納庫の中は、すでにトイレットペーパーのストックでパンパンだった。胃のあたりがぎゅっと苦しくなる。さっき買ってきたトイレットペーパーは、未開封のままクローゼットの隅にしまった。

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好きなんて言うなクソボケ嘘つきが 一生タワマンから出るな

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あなたが指定したカフェはどの駅からも微妙に遠く、しかもその日は雨でした。約束時間の5分前。わたしは入り口の前でお気に入りの傘についた雫を払い、愛想の良い店員に待ち合わせだと伝えました。

通された席は窓際で、ひんやりとした空気に足先からスカートの中までを撫で上げられるような心地がしました。窓から見えるのは、灰色の空とビルとマンション。どこにでもある東京の風景です。目の前の古いアパートの端のベランダでは、洗濯物が干しっぱなしになっていました。雨が降りだしたのは昨日なのに、住人は何をしているのでしょう?

 

温かい紅茶を注文し、わたしはあなたを待つことにしました。あなたが時間を守ることを期待しなくなり数年が経ちます。

 

あなたは25分遅れでやってきました。出がけにトラブルがあったそうです。「どうせ……」となじる言葉が喉まで出たけれど、もう大人なので飲み込みました。あなたはよれたスウェット素材のワンピースに、毛玉のついたカーディガンを羽織っていました。メイクはやはりしていません。「あきらめたんだな」と思いました。あなたの左の頬骨のあたりは紫色でした。

 

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ふりむくな君は #1

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「私が見えるの?」

自分に霊感があると知ったのは、高校の入学式だった。自分が一番乗りのはずの教室に女の子がいた。手足が長くて色白で、横顔のラインが美しい。机の上に軽く腰掛け、窓の外をぼんやり眺めていた。

わたしが思わず見惚れていると、彼女がこちらの視線に気づいた。はっとして目を逸らしたけれど、彼女はずんずん近づいてきて、冒頭のひとことを放った。その瞬間、「あぁ、この子は死んでいるんだな」と理解した。理屈ではなく本能でわかった。幽霊を見たのは初めてだけど、不思議とまったく怖くはなかった。幽霊って本当に「私が見えるの」って言うんだな……なんて考える余裕さえあった。

 

わたし以外からは見えない点を除けば、彼女の見た目は普通の高校生と変わりはない。透けていないし血みどろでもない。顔色はわたしよりも良いくらいだし、足だってあった。よく見れば彼女の履いている上履きのラインは、わたしと色が違っていた。



彼女の名前は蜂村サアヤ。以前この学校に通っており、数年前の冬に亡くなった。深夜受験勉強の合間にコンビニに向かい、車に撥ねられた。「女の子がふらっと飛び出してきた」というドライバーの証言から、警察は当初事故と自殺の両面で捜査を進めていたという。しかし彼女は近所で評判の才色兼備の優等生。遺書はなく、学校での人間関係も家族仲も良く恋人もいた。ドライブレコーダー確認の上、女子高生側の不注意による事故だと結論づけられた。ところが、

 

「自分で車道に出たんだよ」

あっさり言い放つサアヤによれば、彼女は自ら命を絶ったらしい。理由を問うと、短くはない沈黙の後で、「なんとなく」とヘラリと笑った。

 

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それはテメェが悪いです

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最近マユカの様子がおかしい? いつものことじゃないですか。はぁ、最近輪をかけて……? サナダさん、何かしたんですか。


………………びっくりした。いや、こういう時ってだいたい「心当たりはないんだけど」って続くじゃん。不倫してたの? そんでバレたの? コワ……100%あんたのせいじゃん……。


ちなみにどうしてバレたんですか? あなたが浮気をするのは全然想定内なんですけど、マユカが勘づくとも思えなくって。スマホを見るなんて発想ないし、仮にあなたが愛人の家で半同棲してたとしても「毎日会社に泊まりこみ」のひとことで納得するような、純粋な……ていうか鈍い子じゃないですか。

……愛人が家に乗り込んできた? は? いつ? 先週の土曜……。その時、マユカはひとりだったの? じゃあマユカとその愛人がふたりきりで話をしたってこと? 最悪……いや、最悪ですね……。そりゃ無視くらいされて当然では。……あ、されてないんですか。じゃあ様子がおかしいって、具体的にはどういうことですか。……え、「テメェ」って呼ばれてる? 問い詰められることもなく、態度も話し方も変わらず、呼び方だけが変わったと。

「テメェ、来週の予定はどうする?」「今日はテメェの好きなハンバーグだよ」、みたいな? う……ウケる……。笑うなって、こんなん絶対笑うでしょ。

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私じゃダメかと言われても!

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はじめてSNSに載せられるタイプの彼氏ができてラッキー! 結婚しようって言われてハッピー! って思ってたら浮気が発覚。最初こそとぼけていた彼は、動かぬ証拠を突きつけられて平謝りしたが、こちらに許す気がないとわかると逆ギレに転じた。それからマウント取りたくなったのか「てかお前が気づいてないだけで、今までも俺、めっちゃ浮気してたかんな?」と勝ち誇った顔で言ってきた。土下座の体勢からドロップキックを繰り出すなよ。ちなみに交際期間の2年で浮気相手は8人だそうだ。女が5人、男が3人。その上「もう別れるから言っておくけど」と前置きをして逮捕歴まで告白してきた。え? なんで? しかもとんでもない罪状だったので、もはや悲しいとかを飛び越えて「こ、これ生きて帰れるんか……?」と冷たい汗が背中をつたった。彼の家を出てタクシーに乗ってすぐ、安堵のあまり気絶するように眠りに落ちた。運転手さんに起こされた時にはすでに自宅マンションの前だった。

「生きてるだけでまるもうけですね……」
「4250円です」

わたしの言葉を無視した運転手に告げられた値段をカードで払い、独り身のわたしはタクシーを降りた。

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