ゆらゆらタユタ

わたしのブログ

恋の魔法は一瞬で

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(※恋人間の暴力描写があります。苦手な方はご注意ください)
バイト先で一目惚れしたたっちゃんは、当時ハタチの大学生だった。切長の目、尖った鼻、薄い唇、黒髪、ちょっとダサいTシャツと汚れたスニーカー、身長、声、爪の形、右上がりの癖のある字。ありとあらゆるポイントがわたしのストライクゾーンど真ん中。バッターアウト、ノックアウトです。

 

それから2年、誇張ではなく2000回は「好きです」と伝えて2000回フラれた。いや、出会いから1年後には「好きです」の「す」で「勘弁してくれ」と真顔で言われるようになり、そこからさらに半年経つと、目が合うだけで「無理だから」と斬られるようになったので、実質4000回はフラれてる気もする。仮分数……。

ラブレターを彼のエプロンのポケットに忍ばせ「ゴミを入れるな」とマジギレされて号泣したのも、今では良い思い出です。恋愛成就で有名なパワースポットに通い詰め、大学生にもなって「彼を振り向かせるおまじない♡」なんてのは片っ端から試した。神の力か、おまじない効果か、はたまた酒をしこたま飲んでスクランブル交差点の真ん中で「付き合ってくれなきゃ死にます!!」泣き叫んでその場に転がったからか、彼女になることができました。渋谷のコンクリートの冷たさを額に感じてから5年。わたしも大人になりました。

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私の妹にならないひと

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中学の頃、隣のクラスの不良の奥山くんに「このままだとお前は絶対にいじめられ心身ボロボロになり家に火をつけられる。俺が守ってやるのでやらせろ」と言われた。やらせた。初体験だった。

3年間、定期的に奥山くんに呼び出された。友達はできなかったけど、おかげさまでクラスメイトに家を燃やされることなく卒業できた。ただ当時の同級生たちの間では、わたしが奥山くんにいじめられていると噂になっていたらしい。それが理由で遠巻きにされてたと知ったのは成人式だった。びっくりしたし、なるほどと思った。
これはわたしという人間を象徴するエピソードだ。考えるのが苦手で、人の言うことを鵜呑みにし、後で利用されていたと知る。

 

 

そんなわたしを育てたママは、PTAの集まりで「女の子はバカで良いんですよ」と平気で言ってしまう人で、当然保護者の中でも浮いていた。その代わり、周りにはたくさんの男の人がいた。お金をくれる人も、難しい申請や雑用を請け負ってくれる人もいた。わたしはそのうちの何人かを、パパと呼ぶよう求められた。
「わかんない」「そんなの誰かにやってもらえばいい」がママの口癖だった。バカであること、バカなのに男の人の力によって生活ができていること、女としての魅力によって『バカであることを許されている』という自負は、ママの宝物だった気さえする。

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兄の妻になるひと

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兄が「結婚したい人がいる」と言うので、相手は当然ハナちゃんだと思った。兄とハナちゃんは高校時代からの付き合いで、お互いの家族も公認の仲。わたしを本当の妹のように可愛がってくれたハナちゃん。彼女が東京の大学に進んだ時は別れてしまうのではと心配したけれど、ふたりは遠距離恋愛を続けた。無事卒業したハナちゃんは地元に戻って小学校の先生になった。

 

 

でも兄が連れてきたのはハナちゃんじゃなかった。土曜日の午後、兄の車に乗ってきたのは知らない女の人だった。華奢で小柄。カジュアルなワンピースを着ているけれど、サイズの合わないTシャツを着た子供のような印象を受ける。使い込まれたanelloのリュックにはゆるキャラのマスコットがついていた。肩で切り揃えられた黒髪は、艶があるけど後ろが跳ねている。化粧っ気のない顔は下手するとわたしより年下に見えた。両親も想定外だったようで、ふたりとも「え?」という顔をしていた。

 

「ウタちゃんです」
兄は平然と言い放つ。家族の動揺を無視した顔。騙し討ちだと思った。どうやら兄はハナちゃんと別れたことを言い出せず、当日まで黙っていたらしい。ウタちゃんと呼ばれた女の人はぺこりと頭を下げた。あんたもせめて自分で名乗るくらいしろよ、と心の中で舌打ちをした。

 

わたしたち家族の頭には、間違いなくハナちゃんの顔が浮かんでいた。けれど婚約者を前にして、元彼女の名前を出すわけにもいかない。ぎこちない笑顔を張り付けて、わたしたちは彼女を家に迎えた。

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大企業に転職したらデスゲームの運営担当だった件

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「栗原さんは総務部に配属予定でしたが、実は社内の極秘プロジェクトでご活躍いただきたいのです」

 

セクハラジジイとパワハラババアの跋扈するこの世の地獄のようなブラック企業に勤めて2年。社長を殺すか転職するかの二択で迷っていたところ、ダメ元で受けた日本有数の大企業から内定が出た。ダブルピースで辞表を提出。晴れて自由の身となった。

 

半ば脅してもぎ取った有給を満喫し、今の会社に入社したのは6月の頭。中途半端な時期だったけど、同日入社の人がけっこういて、「だ、大企業〜!」って思った。オリエンテーションを終え待機していると、配属先の先輩社員が、同期を続々と迎えにきた。ひとり取り残されたわたしが「はて?」と首を傾げていると、人事部長に別室に呼ばれた。ブラインドを下げ、鍵をかけた個室で言われたのが冒頭のアレ。極秘PJの内容は、正式配属まで言えないとのこと。

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アヤちゃんと3人のトモダチ #平子

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(※こちらの話とリンクしています)

これまでの人生で、他人から言われていちばん腹が立ったのは、「空気の読めないフリをしないで」。相手は大学の友人・アヤだった。

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わたしの育った平子家の家訓は、「いま言わないなら黙ってろ」である。

親は子供は3人のつもりだったそうだ。でも末がまさかの双子で、その上なんやかんやでもうひとり増え、結局5人兄弟となった。当然毎日が戦争状態。双子が喧嘩をはじめたと同時に長女が部活で骨を折ったと連絡が入り、末っ子が転んで頭をぶつけて号泣。挙げ句の果てに長男が「引き出しでダンゴムシ飼ったら増えてた」と言い出す始末。そんな状況だったので、ひとりひとりに細やかなケアなど望めなかった。「やっぱりあれが欲しかった」とか、「言わなくてもわかってほしい」なんて要望は決して通らない。その代わり、言えば叶えようと努力してくれる両親だった。

両親の素質をしっかり受け継ぎ、平子兄弟は全員ガサツに育った。「全員が全員、欲しいものを欲しいと言えるわけではない」というのは小学生のうちに理解したけれど、素直に「欲しい」「やりたい」「絶対嫌」が言えるのは、わりと得する性分だとは、もう少し大人になってから知った。

類は友を呼ぶとはよく言ったもので、高校生まで友達は、同じようなタイプばかりだった。アヤみたいな子と親しくなったのは大学が初めて。ちなみに「アヤみたいな子」というのは、自分の意見をまったく言えない子、の意味だ。

 

どうして仲良くなったかは覚えてない。しーちゃんかユリノ……まぁたぶんユリノだろうな……が、何かのきっかけでお昼に誘ったのが始まりだろう。それからなんとなく、4人で行動することが増えた。おしゃべりなわたしやしーちゃん、ユリノがどんなに盛り上がっていても、アヤは聞き役に徹していた。ニコニコ相槌を打ってるだけのアヤに対して、「本当に楽しいのかな」と思ったことは一度や二度じゃない。ただし、たまに話し始めると話題は過剰に自分を下げた自虐か愚痴なので、黙っててくれた方がマシではあった。

普段は流されるままのアヤだけど、彼女はどうしても賛成できないことがあると、黙り込んでしまう癖があった。最初はアレコレ気を遣っていたものの、そのうち面倒で取り合わなくなった。かまってちゃんをするのは自由だ。でも当然、人にはかまってちゃんをかまわない権利がある。

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アンチ活動結果報告(2)

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(この話の続きです)

「株式会社白井システム所属、明城大学出身の広田ナコさん。インスタもTwitterも本垢抑えてます。逃げるなら全部晒すから」

 

『り』と名乗った女の子、YouTuberのシマレナのアンチだったはずのその人は、どう見てもシマレナ本人だった。完璧な形の眉とまつげ。唇はマットなオレンジブラウンで、ツヤ肌とのコントラストが絶妙だった。もうとっくに冬だというのに、シマレナはアイスコーヒーを頼んだ。猫舌の麗奈ちゃんは温かい飲み物を飲めない。そのことを、わたしはずっと前から知っていた。

 

注文の品が運ばれてくるまで、わたしたちは言葉を交わさなかった。シマレナはテーブルの上に肘をつき、わたしをじっと見つめていた。薄く笑ったその顔には、小学生の頃のシマレナ――島田麗奈ちゃんの面影がある。
わたしが元同級生だと気づいただろうか。いや、所属や本名がバレてるんなら、そんなのとっくに……。わたしは麗奈ちゃんの目を見られなかった。

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アンチ活動結果報告(1)

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――ご趣味は?
――動画鑑賞と、SNSでの中傷です。


映画でもドラマでもバラエティでもなく、わたしはYouTubeが好きだ。特にアイドルや美容系が好き。配信者が使ってるコスメをよく買う。ていうか、今はそうじゃなきゃほぼ買わない。


シマレナを見つけたのは偶然だった。おすすめ欄に出てきたサムネの顔に見覚えがあり、よくよく思い出してみたら、小学校の同級生だった。と言っても彼女は転校生で、同じ教室で過ごした期間は2年だけ。たしか小4の頃に東北から来て、6年生になる前に関西に引っ越していったんだっけ。転校生でありながら、すぐにクラスの中心に立った島田麗奈ちゃん――シマレナ。特に親しかったわけではないけど、懐かしくなってすぐにチャンネル登録した。

 

当時のシマレナのチャンネル登録者数は300人。SNSのフォロワーも多くなかった。各SNSをフォローすると、毎日シマレナの顔が目に入るようになった。麗奈ちゃんは今、東京に住んでいるらしい。会社員をしながら毎日SNSを更新しており、コメントにも丁寧に返信やいいねをつけていた。


麗奈ちゃんの明るい自虐と話術がウケて、切り抜き動画がTwitterでバズったのは去年。それをきっかけに、シマレナチャンネルの登録者やフォロワーは爆増した。以前は「好きだったインスタグラマーがPR投稿ばっかになっていく……つら……」なんてつぶやいた麗奈ちゃんは、バズってからはガンガン企業案件やPR投稿をこなすようになった。毎回「PRだけどガチで良いから!」とつけて。以前は気に入らなかった物には「1500円でゴミを買いたい人にはおすすめ!」なんて辛口で、でもだからこそ、褒めてる物は本当に良いんだと思えたのに。ちなみに、他人のPR投稿に対するマイナス意見のツイートは、いつからかすべて削除していた。

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