ゆらゆらタユタ

わたしのブログ

いっそあなたに恋ができたら

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大学の同期のリコちゃんは、いわゆる恋愛体質だ。常に好きな人がいて、その人の彼女になったりセフレになったり、どうにもならなかったりで、キャンパスライフは彩り豊かだ。常に情報を送受信する彼女のスマホは過労死寸前。使い込んだグッチのバッグには、充電器が2台入っている。


機嫌が良い時のリコちゃんはすごく優しい。似合うコスメを選んでくれたり、悩みをひたすら聞いてくれたり、励まし、慰め、寄り添ってくれる。22年間生きてきて、「大好きだよ」なんて言葉をくれた女の子は、リコちゃんを除いて他にいない。

 

初めての「大好き」は、リコちゃんがフラれた彼氏と行くはずだったディズニーランドに付き合った日だ。一回生の初夏だった。

「サクラがいてくれて本当に良かった。大好きだよ」
シンデレラ城の前だった。ミニーのカチューシャをつけたリコちゃんの笑顔を、今でもはっきり思い出せる。じわじわと胸に広がった、あの柔らかな喜びの熱も。リコちゃんが女の子に向ける「大好き」は、安売りどころか無料配布のばらまきで、駅で配ってるティッシュより薄いだなんて、その時はまだ知らなかった。

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同情するなら彼をくれ!

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妹は、わたしの夫が好きらしい。

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30歳の誕生日に大失恋して、その足で結婚相談所に駆け込んだ。年収・身長・年齢などのあらゆる数値のお見合いをして夫と出会った。入籍は31歳になる2ヶ月前だった。


お互いのゴールは結婚であり、それを達成してしまったら、生活は急速に彩度を失った。趣味も考え方もまるで違うし、違いを面白いとも思えなかった。気の合わない2人が暮らす家は、歩くたび空気がきしむ感じがした。


妹のシオリは関西の大学に進学し、そのまま大阪で就職した。仕事が忙しいのもあって、わたしの夫と顔を合わせる機会はこれまでそう多くはなかった。けれど、両家の顔合わせや結婚式、引っ越し祝い……わたしが夫と家族になろうと努力し、こんなに頑張ってるんだから愛しているに違いないと信じていられた時代のイベントには、必ず参加してくれた。


そんなシオリが春から東京に戻ってきた。こちらには気軽に誘える友達がいないと言うので、姉妹で出かける機会が増えた。観劇、ランチ、ショッピング。気を使わなくていい妹と会うのは、わたしにとっても良い息抜きになっていた。

 


5月、新しいオーブンレンジを手に入れたので、シオリを夕食に招いた。食後に彼女が買ってきてくれた宝石みたいなケーキを食べていた時、出張のはずの夫が帰宅した。仕事が早く片付いたため、ホテルをキャンセルしてきたらしい。

シオリは人なつっこい義妹らしくケーキを勧め、外面の良い夫はそれに応え、わたしは妹と夫の交流を見守る妻として紅茶を淹れた。

シオリを駅まで送った後、夫は「家に他人を入れるなら事前に伝えろって言ったよね?」とため息をついた。わたしは「他人? お前のことか?」と思ったが、乾いた食器を片付けながら「自分の使ったカップくらい下げてくれない?」と言うに留めた。

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「首を探しに行きます」と言われて

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※久しぶりに創作以外の記事。ちょっと怖い話です。特定されそうなところはボカしています。

 

中学1年生の時、部活終わりに先輩に呼び止められた。


「着替え終わったら、1年全員で更衣室に来て」

いわゆる呼び出しだと思った。他の部活の同級生は「調子に乗ってる」「スカートが短い」なんて理由でしょっちゅうシメられていたから、ついにその洗礼を受ける時が来たと。


更衣室を使えるのは上級生だけで、1年生は練習場(室内)で着替えなければならなかった。いつもよりきっちり制服を着込んで、わたしたちは更衣室のドアをノックした。


まず驚いたのは、ひとつ上の先輩たちが全員その場にいたことだ。せいぜい部長含めた2、3人だと思っていたので、「大ごとだ」と血の気が引いた。1年生が揃っているのを確認して、先輩は更衣室のドアに鍵をかけた。

何を言われるんだろう……緊張していたわたしたちに、先輩の話した内容は想像のななめ上だった。

 


「むかし、学校の裏で事故がありました。今日のような雨の日のことです。数名が命を落としましたが、そのうちひとりの首が見つかっていません。……今からその首を探しに行きます


何を言ってるんだ?と思った。でも言える空気では全然なかった。先輩たちが真顔なのも怖いし、急に丁寧口調で早口になったのも不気味だった。


先輩の話によると、事故の犠牲者は3人。大雨の日、顧問の先生が女生徒ふたりを車で送ろうとしたのだけど、スリップして車ごと谷底に落ちてしまったらしい。先生と女生徒のひとりの遺体は車の中で発見されたのに、もうひとりの遺体は何故か車から少し離れた場所で、首がない状態で見つかった。女の子の右手は校舎の方角を指差していた。彼女は今も自分の首を探している。


わたしは思わず窓の外を見た。まさか今から雨の中、事故現場まで行くってことか?

そんなわたしの考えを見透かしたように、先輩は続けた。
「首探しはこの部屋でやります」

……首、この部屋にあるってこと……?
ゾッとしたけれど、そういう意味ではないようだった。今から全員で手を繋ぎ、目を閉じて、決まった道順を各々想像の中で歩く。目的地に女の子の生首があるので、回収して来た道を戻る。校門で首のない女の子が待っている。持ち帰った首を彼女に手渡ししたら終了。終わった人から静かに目を開けて、全員“帰ってきた”ら解散。


道順はけっこう複雑で、校門からどういうルートで校舎に入って、(実際には存在しない)地下室への階段を降り、地下のドアは何故か外に繋がっていて、橋がかかった池があり……みたいな感じだった(実際はもっと細かくどこを右、どこを左、何番目の……という指示があったと思う)。


加えていくつかのルールがあったが、覚えているのは「女の子の首は必ず両手で抱えること」「名前を呼ばれても振り返らない」「全員が目を開けるまで、ひとことも話してはいけない」だ。

 


わたしたちは輪になって手を繋いだ。茶化す人は誰ひとりおらず、異様な空気が漂っていた。先輩の合図でみんな目をつむって、指定のルートを頭に思い浮かべ始めた。わたしはとにかく怖くて早く終わらせたかったけれど、手順・道順を間違えたり飛ばしたらもっと恐ろしいことになる気がしたので慎重に進んだ。校門、地下室、橋、首。想像の中の女の子の首はあまりグロくなかったから、抱えるのにも抵抗がなかった。幸い、名前も呼ばれなかった。わたしが目を開けた時、半分くらいの子が“帰ってきて”いた。残りの子も数分ほどで目を開けた。


全員が“帰ってきた”のを確認して、先輩は言った。

「お疲れ様でした。来年の今頃、雨が降った日に、次の1年生に同じことをしてあげてください。伝統なので」


『してあげて』という言い方が、妙に気になったのを覚えている。先輩たちは早々に更衣室を出ていき、気の抜けた1年生の中には泣き出してしまう子もいた。わたしは自分たちが語り手になる来年まで、この複雑な手順を覚えていられるか不安になった。記憶が鮮明な今、全員で確認しながらメモを取るべきでは?とも思った。でも想像の中のモノを紙に書き起こすのは、恐ろしい何かが実体を持ってしまうようで嫌だった。

 


その後、話し手の先輩が謎の死を遂げることも、練習場に血の手形がついているなんてこともなく、ただただ普通に時間が過ぎた。わたしたちもこの伝統を継いで(自分たちの代で終わらせるのも怖かった)、次の年の5月の雨の日、後輩に同じ話を『してあげた』。「いつあの話を伝えるか?」などの相談をする時以外、暗黙の了解でこの話題はタブーだった。だから同級生の間でも、話題に出すのはほぼ1年ぶり。それなのに、全員が妙にはっきりと手順・道順を覚えていて、そのことが気持ち悪かった。


あの話を後輩が次の代に伝えたかどうかはわからない。5月の雨の日に、ふと思い出したので書いておく。

 

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中学時代にこれよりしんどかったこと↓

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わたしの神棚

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ナンパされるのは嫌いじゃない。よっぽど気持ち悪い男でなければ、その日のうちにホテルまで行く。


今日も滞りなくセックスは終わった。男がシャワーを浴びている間、わたしは彼の持ち物を物色することにした。初めて会って寝た男から、物を盗むのが趣味なのだ。財布や時計、貴金属には興味がない。欲しいのは、残り数本の煙草の箱とか、使いかけのリップクリームとか、フリスク、手帳の切れ端、ポケットティッシュ……失っても「あれ?」で終わる、あるいはそれすら発生しない物たち。


男のリュックにはノートパソコン、充電器、財布とKindle、小さなポーチが入っていた。ポーチ中身は汗拭きシートとブレスケア、アトマイザーに入った香水、目薬。検討の結果、今回は目薬をいただくことにした。


それにしても、お互い無防備だと思う。初めて会った人間に裸を晒して、荷物を放置するなんて。わたしが悪い女ならリュックを持ち去ってホテルを出るし、向こうが悪い男なら殺されていたかもしれない。そうして死んだら、顔も知らない人間たちから、男にホイホイついてく貞操観念を責められるんだろう。せめて冥福を祈ってほしい。

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令和本命会議

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ーーこの男、やはり他にも女がいる!!

夏野ナツコが天啓を受けたのは、ある静かな夜のことだった。彼氏の春川ハルキは憎らしいほどスヤスヤと、穏やかな寝息を立てている。

 

神は言った。ただちに他の女どもを蹴散らし、あなたこそが本命であると証明するべきだ、と。ナツコは神の啓示に答えるべく、人生で初めて十字を切って、ハルキのスマホに手を伸ばした。眠るハルキの指を借り、指紋認証を解除する。調査の結果、ハルキは3人の女の『彼氏』を兼務しているらしかった。LINE、カップル専用アプリ、Facebookメッセンジャーとアプリを女ごとに使い分け、誤爆を防ぐ徹底ぶり。彼女らの本名と連絡先をメモして、ナツコはハルキのスマホを充電器につなぎ直した。ネットストーカー二段のナツコにとって、情報はこの程度あればじゅうぶんだ。自分のスマホに持ち替え30分。ナツコはハルキの彼女(笑)たちのSNSアカウントを特定した。彼女たちの投稿を朝までひたすら遡り、ハルキが起きる前に身支度をして、昼すぎに彼を送り出した。

その日のうちに、ナツコは彼女たちにDMを送った。ふたりとも薄々感づいていたのか、赤の他人からの【恋人の浮気のお知らせ】に、疑うことなく返信してきた。決戦は金曜日、渋谷のファミレスで待ち合わせである。



当日、渋谷駅近くのファミレス。ハルキの彼女No.2(No.1はもちろんナツコだ)・秋川チアキにナツコが声をかけられたのは、待ち合わせ時間を10分過ぎた頃だった。

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悪意を垂れ流すあなたのことが、もはや恋より純粋に、

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「あんたが男だったら良かったのに」とヒメちゃんはよく言うけれど、実際わたしが男だったら相手にされないのはわかっています。


ヒメちゃんは空気を読めないし、気分屋ですぐ不機嫌になる。自分の感情が最優先で、昨日まで一方的に無視していた相手に「彼氏とケンカしちゃった〜!」なんて深夜に泣きながら電話したりする。それで朝まで付き合わせておいて、お礼も言わずに寝落ちする。んで次の日からまたシカトする。そういう人だから、女友達はほとんどいない。


わたしが彼女と仲良くできるのは、何も期待してないからだろう。約束は毎回ドタキャン覚悟だ。今日も待ち合わせ場所にヒメちゃんの姿を見て、ちょっと意外に思ったくらいだ。駅で買ってきた文庫本は、家に帰ってから読むとしよう。

 

ヒメちゃんの口から出る話題は、男か自慢か悪口しかない。それでもわたしは、美しい唇が放つ下品な言葉が好きだった。ヒメちゃんはあまり難しい言葉を知らないけれど、人をこき下ろす際の語彙の豊かさには、たまにびっくりさせられる。職場の上司がどんなにブサイクか、あらゆる比喩とオノマトペを用いて説明してくれた1時間は、不思議な高揚感があった。

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正方形の恋人

 

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高畑さん、おかえり。遅かったね。

2時間くらい待っちゃった。ん? 何しに来たって、集金だよ。今月振込なかったから。とりあえず中入れてくれる? スマホの充電切れてんだ。

お腹空いちゃった。何か食べるものある? そう、作ってくれるんだ。ありがとー。うん、時間は大丈夫。時給制じゃないから気にしないで(笑)。


懐かしいなぁ。 高畑さんとこういう関係になったのは、20歳くらいの頃だったよね。

街中で知らない女の子から、「ユメの彼氏さんですよね」って声かけられた時はびっくりしたな。その女の子の後ろには、真っ青な顔の高畑さんがいて。

あの時、話を合わせたのは高畑さんが今にも泣き出しそうだったからだけど、実はもうひとつ理由があるんだ。俺に話しかけてきたあの子……ナツミちゃんだっけ? あの子の笑顔から、嘘を暴いてやろうって意地悪な気持ちが透けて見えていたからだよ。案の定、俺が認めたら、ちょっとつまらなそうな顔してた。

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