ゆらゆらタユタ

アラサーとゆとりを取り巻くもろもろ

うさぎとカメ#うさぎのサキちゃん

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いとこのカメちゃんとは、小さい頃から仲良しだった。カメちゃんというのはもちろんあだ名で、童話のうさぎとカメからきている。


わたしとカメちゃんの母親どうしが姉妹で、娘のわたしたちは同い年。自分で言うのも何だけど、わたしは容姿とコミュ力にそれなりに――この『それなり』がわたしを後々苦しめるのだけど――恵まれた、要領の良い子供だった。幼稚園に行きたくなくてカメちゃんが毎朝泣いていた頃、わたしはお遊戯会の主役を嬉々としてこなしていた。


ふたりで同じ小学校を受験して、わたしだけが合格した。親戚が集まる場で、優越感を隠しきれずに「ほら、うさぎとカメなのよ。うちの子うさぎなだけだから」「将来きっと抜かされちゃうわ」と笑ったママ。それを悪気のない発言としてフォローしたパパは、本当に幸せな人だと思う。


わたしが苦労なく大学まで進学する間に、カメちゃんは中学受験も失敗し、高校は都内の私立に進み、大学は現役でわたしと同じ大学に来た。学部が違うので一緒に行動することはなかったけれど、会えば他愛のないおしゃべりをした。就活がうまくいかなかったわたしは、3年前から某金融機関の子会社で働いている。院に進んだカメちゃんは、この春から有名な化粧品会社の開発職に就いた。

 

 

「お茶しない?」と連絡があったのは先月の終わり。気は進まないけど会うことにした。断る理由も尽きていた。


念入りにメイクして、わざと遅れてお店に入った。「ごめんね、待った?」と声をかけると、「大丈夫だよ」とカメちゃんは微笑む。ブラウンのリップが可愛くて似合っている。素直に口にしたくはなかった。でも褒めないのも意識してるみたいで癪だったから、仕方なく、何にも考えてない顔で言う。「あれ、なんだか綺麗になった?」


「コスメに囲まれてるからかな? なんだか垢抜けたみたい」

「そうかな……わたしの所は開発だから、やることは地味なんだけどね」

照れて笑うカメちゃんが、目を伏せて髪の毛を耳にかけた。短い爪はトレンドの色で塗られているし、黒髪の手入れも行き届いている。メイクは薄めだけど、全体的に透明感がある。本当に、綺麗だと思った。でもこれ以上は言ってあげない。

 


希望の部署に配属されたらしく、仕事を語るカメちゃんは生き生きしていた。内容は半分以上理解できなかったけど、とにかく多忙で充実した日々を送っているらしい。わたしは虚無の「すご〜い」を繰り返し、カメちゃんが満足するのを待った。


「そっちはどう? もう3年目だよね」

尋ねるカメちゃんのまっすぐな目。すべての人間がやりがいや向上心を持って働いていると信じている顔。「そうですね、やはり後輩も増えて仕事の幅が……」とか言えばいい? わたしみたいに何の目標もなくデータを処理し続けるOLがいるなんて、きっとご存知ないのでしょうね。

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テニス、セックス、ヘッドスパ

テニス、セックス、ヘッドスパ

30になってもセックスの良さがイマイチ分からず、女友達が絶賛するセフレと寝てみることにした。


「絶対に好きになりません」

「セックスは1回きりです」

「連絡先は消去します」


そんな念書まで書かされたので、「ランちゃんが彼を好きなら遠慮するよ」と言ってみたものの(わたしは『友達のセフレ』とは寝れても『友達の好きな人』とは絶対に寝ない、わりかし硬派な女である)、「そんなわけないじゃん」と返されて、その顔は少し引きつっていたような気はするけれど、「友達とセフレをシェアってのも気持ち悪いじゃん?」「こっちが会えなくなるのも嫌だし」「彼はわたしの……わたしの、いつでもセックスできる、都合のいい男なんだから」という、「わたしが好きなのはあくまでも、『彼とのセックス』なんですよ?」を強調しまくる念押しの後で、微妙に盛れていないわたしの写真がセフレの彼に送信された。返信は10分たたずに来た。


「今日でもいいよ。18時以降にウチでヨロシク」

グーグルマップで住所を共有。デキる男はスムーズである。


それから30分くらい、ちょっと不機嫌になったような、そうでもないようなランちゃんに「まぁ上手いって言っても相性はあるけど」「ちょっと小汚い感じだし、あなたのタイプじゃないかもね?」などと言われながらお茶をして、わたしは男と寝るため店を出た。

 

知り合いの紹介とはいえ、初対面の女に警戒心ゼロで住所を教えるランちゃんのセフレは、確かに長髪でヒゲを生やしていたが、不潔な印象はまるでなかった。むしろベースは塩顔イケメンに属する顔で、わたしは逆にがっかりした。いかにもランちゃんの好きそうな男だ。ホンマにセックス上手いんでっか? 顔面ボーナスちゃいまっか?

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全自動お茶汲みマシーンマミコと指輪とセックス、あと殺意

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テツくんの言う、今日家行ってもいい? が今日生理じゃないよね? の意味だと知ったのは、大学3年の頃だった。

 

家に行ってもいい? を言葉通りの意味だと誤解した当時のマミコは、生理中にも関わらずテツくんを招いて夕食をふるまい、マークスアンドウェブのハーバルバスシュガーを入れたいい匂いがする風呂を貸し(※1)、パジャマを用意するという大失態を犯してしまった。

 

並んでDVDを見ている最中に、彼がマミコの肩に手を回す。頬や耳元に唇が触れる。テレビ消そっか、と言う彼に、生理中だと伝えた途端、部屋の温度が下がった気がした。テツくんはマミコに触れていた手を離し、普通そういうの先に言わない? と無知なマミコに社会常識を教えてくださった。さらに不機嫌になりつつも、別にいいけど、と寛大な許しまで与えてくださったのである。マミコの胸は感動に震え、自然と出た言葉はこうだった。ごめんね。今日は口でもいい?

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全自動お茶汲みマシーンマミコとマミコをぺしゃんこにする男

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驚くべきことに、最近のマミコはひとりの男に入れあげている。テツトくん。広告代理店に勤めるサラリーマンで、マミコの大学時代の元カレである。

 

テツトくんとは大学3年から、1年半ほど付き合った。マミコが今の会社へ入社を決めるにあたって、彼と結婚する可能性はひとつのポイントだったりしたが、就職してすぐあっさりフラれた。他に好きな人ができました。お前と違って頭が良くて自立した子です。お前とは同じレベルの議論ができないし、一緒にいてストレスだった。別れ話では、だいたいそんなことを言われた。1年後には婚約したらしいと聞いたが、現在マミコの前にいる彼の左手に指輪はない。

 

数ヶ月前、何の前触れもなく連絡がきた。実に数年ぶりだった。食事の日程を決めてから、マミコは全力で美容にコミットした。吟味に吟味を重ねた結果、ファンデはイプサのファウンデイションアルティメイトにした。多少値は張るがコスパは超絶、重ね塗りしても不自然さゼロ、時間が経つと更に馴染んでツヤツヤ。2月の時点で今年のベストコスメが決定した(※1)。目元にはルナソルのマカロングロウアイズを使い、ちょっと泣いた後みたいな赤みを足した(※2)。

 

その甲斐あって、再会は大成功だった。テツトくんは今の彼女といても安らげないんだよな……みたいな戯言を言い、マミコはマミコでテツトくんのこと、ずっと忘れられなくて……みたいな寝言をほざいた。そして、やっぱりマミコといると落ち着く……みたいなことを言いながら彼がマミコの手を握り、わたしも……とマミコは涙をうかべてはにかんだ。

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慰謝料600万の恋

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内容証明郵便ってやつを、生まれて初めて受け取りました。彼の奥さんからでした。彼の奥さん? ……はい、不倫をしてました。相手は職場の上司です。

 

慰謝料……って、あの……。いや、わかってますよ。配偶者に浮気された場合、その不倫相手にも請求できるんでしたよね。すぐにコウくんに電話した。予想に反してすぐに出た。

 

「ちょっと、バレたの!? どういうこと? 今、書類が届いて、奥さんから!」

動揺のあまりの倒置法。一拍おいて彼の声。

 

「ごめん。妻に話したんだ」

おいクソバカ! 何してんだよ!!
瞬間、愛しのコウくんはクソバカに堕ちた。

 

そのクソバカの話によると、クソバカの行動を怪しんだ奥さんが、なんと探偵を雇っていたらしい。泳がされたクソバカは、まんまと証拠を握られて、わたしの身元も調べられ、慰謝料請求に至ったと。奥さんは子供を連れて、先日から実家に帰っているとか。

ていうかさ、それ話したっていうかバレたって言わない? この後に及んでなんでちょっとカッコつけたんだよ。

 

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宮田和成は親友の形見

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「もう帰っちゃうの?」

甘える腕をふりほどき、わたしは彼の家を出た。

三軒茶屋の駅近マンション。とはいえ電車はとっくに終わってるから、もうタクシーに乗るしかない。あと数時間待てば始発が出るけど、ことを済ませた男の部屋で、時間を浪費する術をわたしは知らない。知りたくもない。

 

男は恋人ではないが、1年前までは恋人だった。

結婚の話が出てきた時期に、彼がわたしの友達と浮気したのだ。彼は――宮田は、「男の浮気は遊びだから」と最後まで言い訳を続けていた。彼とホテルに行った親友・絵里は、何度も何度も頭を下げて、「宮田さんはもういらない」「佳奈ちゃんのほうがずっと大事」だと言った。

「佳奈ちゃんに選ばれる『正解の男の人』に愛されてみたかった」と涙を流した10年来の親友を、わたしは今も許せていない。

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嘘つきロミオと絶対死なないジュリエット

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幼い頃から神童と呼ばれ、すくすく育って天才となった。奇抜な発想・泣きぼくろ・ちょっと抜けてるところがチャームポイントの22歳です。

 

大学生になったわたしは、趣味でアプリの開発をしていた。簡単に言うと、アプリを入れたスマホから、嘘のメッセージを送ると死にます。メールだろうとLINEだろうと、SNSのDMだろうと、とにかく真実でない内容を故意に誰かに送った場合、アレがアレして心臓が止まる仕組みです。

 

そして今日、彼氏のスマホにアプリをインストールした。死亡通知が届いたのは、彼の家を出て2時間後。「やっぱり誰よりサヤが好きだ」とのLINEを受信した5分後だった。



アプリの最初の被験者は、去年のゼミ合宿になぜか来ていたOBだった(本当になんでいたんだよ)。

合宿2日目、会話がまばらになって寝ている人もいた部屋飲み終盤。先輩がスマホをいじっているのを見て、わたしは彼にLINEを送った。

「センパイ、去年わたしの研究データを丸パクリしましたよね」

 

先輩はあからさまに顔を歪めてこちらを睨み、すぐに「してねーよ」と返信してきた。わたしのスマホの受信音と、先輩の「うっ」が重なった。先輩の顔はみるみる紫色になり、2分ほどもがいて死んだ。南無。ちなみに死因は不明とのこと。

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