ゆらゆらタユタ

わたしのブログ

慰謝料600万の恋

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内容証明郵便ってやつを、生まれて初めて受け取りました。彼の奥さんからでした。彼の奥さん? ……はい、不倫をしてました。相手は職場の上司です。

 

慰謝料……って、あの……。いや、わかってますよ。配偶者に浮気された場合、その不倫相手にも請求できるんでしたよね。すぐにコウくんに電話した。予想に反してすぐに出た。

 

「ちょっと、バレたの!? どういうこと? 今、書類が届いて、奥さんから!」

動揺のあまりの倒置法。一拍おいて彼の声。

 

「ごめん。妻に話したんだ」

おいクソバカ! 何してんだよ!!
瞬間、愛しのコウくんはクソバカに堕ちた。

 

そのクソバカの話によると、クソバカの行動を怪しんだ奥さんが、なんと探偵を雇っていたらしい。泳がされたクソバカは、まんまと証拠を握られて、わたしの身元も調べられ、慰謝料請求に至ったと。奥さんは子供を連れて、先日から実家に帰っているとか。

ていうかさ、それ話したっていうかバレたって言わない? この後に及んでなんでちょっとカッコつけたんだよ。

 

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宮田和成は親友の形見

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「もう帰っちゃうの?」

甘える腕をふりほどき、わたしは彼の家を出た。

三軒茶屋の駅近マンション。とはいえ電車はとっくに終わってるから、もうタクシーに乗るしかない。あと数時間待てば始発が出るけど、ことを済ませた男の部屋で、時間を浪費する術をわたしは知らない。知りたくもない。

 

男は恋人ではないが、1年前までは恋人だった。

結婚の話が出てきた時期に、彼がわたしの友達と浮気したのだ。彼は――宮田は、「男の浮気は遊びだから」と最後まで言い訳を続けていた。彼とホテルに行った親友・絵里は、何度も何度も頭を下げて、「宮田さんはもういらない」「佳奈ちゃんのほうがずっと大事」だと言った。

「佳奈ちゃんに選ばれる『正解の男の人』に愛されてみたかった」と涙を流した10年来の親友を、わたしは今も許せていない。

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嘘つきロミオと絶対死なないジュリエット

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幼い頃から神童と呼ばれ、すくすく育って天才となった。奇抜な発想・泣きぼくろ・ちょっと抜けてるところがチャームポイントの22歳です。

 

大学生になったわたしは、趣味でアプリの開発をしていた。簡単に言うと、アプリを入れたスマホから、嘘のメッセージを送ると死にます。メールだろうとLINEだろうと、SNSのDMだろうと、とにかく真実でない内容を故意に誰かに送った場合、アレがアレして心臓が止まる仕組みです。

 

そして今日、彼氏のスマホにアプリをインストールした。死亡通知が届いたのは、彼の家を出て2時間後。「やっぱり誰よりサヤが好きだ」とのLINEを受信した5分後だった。

アプリの最初の被験者は、去年のゼミ合宿になぜか来ていたOBだった(本当になんでいたんだよ)。

合宿2日目、会話がまばらになって寝ている人もいた部屋飲み終盤。先輩がスマホをいじっているのを見て、わたしは彼にLINEを送った。

「センパイ、去年わたしの研究データを丸パクリしましたよね」

 

先輩はあからさまに顔を歪めてこちらを睨み、すぐに「してねーよ」と返信してきた。わたしのスマホの受信音と、先輩の「うっ」が重なった。先輩の顔はみるみる紫色になり、2分ほどもがいて死んだ。南無。ちなみに死因は不明とのこと。

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ヨウくんと女と女と女

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2年前と同じく、よく晴れた気持ちのいい日だった。

日差しは柔らかく、風はさわやかで、まさに結婚式日和。チャペルはステンドグラスが素敵だったし、披露宴会場は天井が高くて開放感がある。見事な庭園を絵画みたいに切り取る窓。テーブルやブーケにあしらわれたマリーゴールド。すべてを目に焼き付けたかった。大事な親友の結婚式だ。

 

今日のヒカリはとびきりキレイだ。食事制限がつらい、エステの効果がわからないと式の直前までボヤいていたけれど、すべて実を結んでいるように見えた。マーメイドラインのウェディングドレスは、可愛いもの好きのヒカリが選んだにしてはシンプルで、わたしはその選択が愛おしかった。ヒナタも同じ気持ちのようで、ふたりで視線を交わして笑いあう。

新郎新婦の意向で、招待客のドレスコードはゆるめ。ヘビ皮のパンプスを履いた人、ファーのクラッチバッグを持った人。男性側には、キレイ目なデニムにジャケット姿の人もいた。そんな中、ヒナタの装いには隙がない。青いドレスはわたしよりよく似合っていた。12センチのピンヒールのおかげで、今日の彼女の身長は180センチを超えている。フラットシューズを履くわたしより、頭ひとつ分以上高い。



友人代表スピーチはヒナタの役目だった。名前を呼ばれた彼女が前に出る。マイクの前に立つヒナタの顔は堂々としていて、緊張はしてなさそうだ。

 

「ヒカリさん、ヨウタさん、並びにご両家の皆様、本日は誠におめでとうございます。こんなに素晴らしい日におふたりを祝福できることを、とても嬉しく思います。

 

わたしは、新婦の中高時代の同級生のカガワヒナタと申します。おめでたい席ですが、ここからは普段通り、ヒカリと呼ぶのをお許しください」

 

ヒナタの声は高すぎず、聴く人に安心感を与える。明瞭な発音。清廉な響き。ほんの数十秒で、ヒナタは会場の心をつかんだ。

 

「わたしとヒカリ、それからアカリ。……あちらの赤いドレスのミヤギアカリさんの出会いは、中学校の入学式でした」

ヒナタに手と目で示されて、みんなの視線がわたしに集まる。わたしはほとんど反射で口角を上げた。ウエディングドレスのヒカリと目があう。ヒカリもいたずらっぽく笑って、小さくわたしに手を振った。

 

「わたしたちの通う中学では、ほとんどの生徒は近所のA小学校、もしくはB小学校の出身者でした。だから入学当初から、クラスにはなんとなく派閥ができていました。

そのふたつの小学校出身でないのは、女子の中ではわたしたち3人だけでした。つまり、わたしたちは居心地の悪い教室の中で、身を寄せ合うようにしてくっついたのです。

 

そういうわけなので、最初は共通の話題を見つけるのも難しかったです。例えば、わたしとヒカリはアウトドア派だけどアカリはインドア。ヒカリとアカリはアイドルに夢中だったけど、わたしは演歌が好きでした。そしてわたしとアカリは推理小説が好きですが、ヒカリは漫画しか読まない――そういう風に、なんでも2対1になってしまうのです」

 

父の仕事の都合で引っ越してきたわたし。学年で10人もいないC小学校出身のヒカリ。部活のため、学区を越えて入学したヒナタ。彼女の言う通り、はじめはあぶれものの寄せ集めだった。それが一生の親友になるなんて、あの頃は予想もしていなかった。

 

「……そんなわたしたちですが、ひとつだけ共通するものがありました。男性の趣味です」

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全自動お茶汲みマシーンマミコとマミコのことが大好きな男

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3月14日、仕事終わってから会える? とショウタから連絡があったのは、3月のはじめのことだった。ショウタはマミコのことを彼女と思っている男のひとりで、今や1番の古株である。ナカモトショウタ、24歳。友人と起業した会社でゲームやアプリを作っている。

 

ショウタとは、大学時代のアルバイト先のカフェで出会った。彼はマミコより3歳年下で、一緒に働いていた期間は1年に満たない。あの頃のショウタはいかにも田舎から出てきた純朴な学生という印象で、いつも自信なさげにキョロキョロしていた。けれど素直で一生懸命なので、すぐに皆に可愛がられた。

 

当時から、ショウタの好意には気づいていた。ただ、その時マミコには彼氏がいたし、ショウタもそれを知っていた。ショウタの恋がそのまま静かに終わっていれば、今でも彼はマミコの可愛い後輩だっただろう。

就職後、マミコは大手代理店の彼氏にフラれ、一時荒れに荒れた。そこの隙間に入り込んだ……いや、さすがにそれはずるいか。隙間を埋めたいマミコの手近にいたのが彼だった。関係はもうすぐ5年になる。……5年! マミコは少しめまいがした。

  

ショウタはマミコが好きである。それは他の男とは明らかに違う『好き』だ。マミコを女の子Aじゃなく、ノガミマミコとして見ている。その上で好きだと言っている。それはおぞましく、しょうもなく、あってはならない最低の趣味だった。

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ワンナイトラブにラブはあるのか

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花から花へ、蜜を吸うようにワンナイトラブを繰り返しているわたくしですが、先日ひとりの友達に「何がワンナイトラブだよキモ、どこがラブだよマジキモい、ヤリ捨てされてるだけじゃんほんとキモ」と言い捨てられて、思うところがあったのでこうしてブログを書いています。彼女が語尾に「キモ」をつけるタイプのキャラ変をしたわけでないのなら、相当キモがられているようです。それにしたって「キモい」はひとつのセリフにひとつまで、そう学校で習わなかったキモ?


ワンナイトラブにラブはあるのか?という問題ですが、人によるんじゃないですか?詳しく知りたきゃAMを読め。ただしわたしの見解としては、ラブはあります。絶対に。

初対面だろうが顔見知りだろうが、その時いいと思った人への感情が、ラブじゃなかったら何なんですか。紆余曲折経て幼馴染と結ばれるだけがラブですか。国産オーガニック無農薬生産者の顔が見えるレタスだけがレタスだと思うタイプですか???

すごい勢いで蒸発してゆく感情を、ラブと呼んではいけない決まりがありますか。ラブ揮発性。わたしのラブは空気に溶けて、朝には世界に還ってゆく(ポエム)。

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都合のいいあなた

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「いい加減まともな男を見つけろ」

390円のビール片手に諭されたあの日、ハタチのわたしが「まともな男なんかどこにもいない」とわめいたら、ちょっと間をおいて佐藤が言った。「……俺は?」。唖然。

 

佐藤は大学の同期だけど、年齢は2つ上だった。いつでも甘やかすでも突き放すでもない対応をしてくれるから、何かあるとみんな佐藤を頼った。


そんな佐藤の「俺は?」が冗談でないのを察した時の、足もとが崩れてゆく感覚。わたしは「何言ってるの」と笑顔で逃げて、佐藤も「だよな」と逃してくれた。

 

大学の仲間は卒業してからも仲が良く、何かと理由をつけては集まっていた。ある日の飲み会で、長い間彼女がいないことをからかわれた佐藤が「でも好きな人がいる」「無理かもしれないけど告白するつもり」と言い出した時は、場は大いに盛り上がった。

たまたま彼氏と別れたばかりの(そして、それを佐藤に知られている)わたしは、ビールにちびちび口をつけながら、やばい、やばいと目を泳がせていた。この飲み会の後、わたしは佐藤とふたりで駅まで歩かねばならない。

 

 

みんなと別れてから、佐藤に口を開かせないよう、わたしはひとりで喋り続けた。実家の猫からレスリング世界大会まで話が飛躍したところで、佐藤が相槌をやめて黙り込む。あぁ。


佐藤が息を吸う。そして吐き出した「あのさ、」にかぶせて、わたしは一方的にまくしたてた。

「ねぇ佐藤、さっき好きな子がいるって言ってたじゃん、佐藤に想われるなんてその子も幸せ者だよね、でも佐藤にふさわしい子って他にいるんだと思う。ほら見て、高校の友達のユキちゃん。彼氏欲しいんだって。可愛いでしょ? 佐藤ならわたしも安心しておすすめできるし……どう?」


うつむいたわたしの頬の熱さを、2月の冷気がさらっていく。佐藤の顔を見られなかった。いつかの居酒屋みたいな沈黙に、心臓がじわじわ締め付けられる。

「……ありがとう。会ってみる」

こうして佐藤は、再びわたしを逃してくれた。

 

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